『おもろい企業探索ツアー』第5回は株式会社関ケ原製作所。
このシリーズは名古屋工業大学に縁のある企業を訪問して社長や役員、名工大卒業生に話を聞き、山じいの視点からその魅力に迫るという企画です。前編はこちら。では後編をどうぞ。
デカイ!かつ正確!製品の迫力が違う!
さて後編は肝っ玉母さんが山じいにどうしても見せたいと言っていたトンネル掘削機を始めとした「極み物」見学の様子から。
関ケ原古戦場のど真ん中にある関ケ原製作所の敷地に点在している工場をゆっくりと巡りながら、浅野本部長に製品の説明してもらいました。
関ケ原製作所には、建機メーカーの開発品をオーダーメイド一貫生産する大型製品、自社で開発・設計・製造を行う船舶用クレーン、それと建機メーカーからの受注で量産する油圧機器製品、JRの無理難題を形にする鉄道機器製品、超高精度な平坦が売りの精密石材製品の仕事がある。
超大物・超高精度の両方を扱えるのに加えて、量産品から一点モノの開発製造まで手掛けられる関ケ原製作所では多岐に渡る仕事に関わるチャンスがある。
テンション上がる!大型製品事業
先ずそのトンネル掘削機!!デカい!!!
関ケ原の中で一番大きな工場の中に、直径約5m、全長数十mの巨大トンネル掘削機が鎮座していた。
これは大型建機メーカーとスーパーゼネコンが共同開発した、新機能搭載のトンネル掘削機で関ケ原製作所は設計と製造、組み立てを担っている。
一度に何台も作れないし、出来上がったらすぐに出荷してしまうので、いつでも見学できるものじゃないんだな。
青く塗られている円柱体の先端がぐるぐる回って岩盤を削りながら進み、山の中や海の底にトンネルを掘り進める。
青い部分だけで数十トンあって、これを動かすには敷地内の全ての機械を停止しないと電気が足りないそうだ。
さすがの山じいも動かして欲しいとは言えなかった。
どうやってトンネル掘りの現場まで運ぶのだろうか??と心配になるくらいデカイ。何やら上下で半分に分割できるそうで、現地で再度組み立てて稼働を見届けるところまでが仕事だそうだよ。
トンネル掘削機は開発こそ発注元だけど、設計から製造そして現場への設置まで関ケ原製作所が一気通貫で仕事できるんだ。
トンネル掘削機としては中型の部類なんだけど、このサイズで一機数百トンもある。
デカいということだけで特殊なんだなあ…山じいとつかっちゃんはこの大きな見たことのない機械を見上げながら終始「へぇ~っ!」を連発していた。
実物を見るとテンション上がるぞ!見学希望者は連絡しておいで。
大型スーパーマシンの一つに、大型航空機のボディーを接合するときに使うリベット(金属の可塑性を利用したネジ留めより強い金属接続方法)をミリ単位の精度で打ち込めるスーパーリベッターがある。(大人の事情でリベッターの写真はありません涙)
大きな航空機の胴体を固定し、このスーパーリベッター側が動いて正確な位置にリベットをかしめられる機械だそうだ。超巨大かつ超高精度を誇るスーパーマシン。航空関連部品に求められる精度は半端ないよ。
関ケ原製作所はこれらの大物をミリ単位の精度で作り上げることのできる大型工作機械を導入しており、機械好きには必見の迫力満点な工場でしたわ。
自動車の量産ラインとは全然比べモンにならない一点モノ製作ラインだった。
かっこういぃ~!!
精密な水平面作りには石材が最適
次に向かったのは趣をがらりと変えて精密石材の工場。
南矢橋は建材用石材を扱う関ケ原石材と関ケ原製作所からなるが、こちらで扱う石材は建材ではなく、精密機器を作る機械の土台になる石材。黒御影石を極めて平坦にできる特殊技術を持っている。
人気番組だったNHKの「超絶凄ワザ!」の特集「真球対決」で、球を転がす30mのめっちゃ平らな台を作ったのがこの関ケ原製作所なんだよ。
テレビ見たかい??番組の見どころは、どれだけの真球が創れるかなんだけど、それをどう評価するか??坂から転がした真球がまっすぐにどこまで転がって行けるかを計測して真球度合いを評価するってわけ。そうなると当然、めっちゃ平らな台が必要になる。
30mで5ミクロン以内の歪みと言われてもピンと来ないけれど、極めて誤差のない水平面だそうだ。
真球対決の本編とは別に関ケ原製作所の精密石材加工の素晴らしさが分かる回も放映されたんだよ。
ではこれは何によって磨かれた技術なのか??
石定盤って聞いたことあるかい?精密測定用の基準面として使用する台のことだ。
また液晶や半導体を製造する機械は、水平面に置かないと安定した品質で生産できないから、機械の下にマシンベースと呼ばれる精密に調整された超水平な台を用意する必要がある。
この石定盤やマシンベースにはセラミックや金属も使われるが「錆びない・軽い・硬い・加工しやすい」と条件の揃った石材が最も適していて、この分野で関ケ原製作所の右に出る会社はない。
大型の液晶が一度に何枚も作れる、3m四方の特注大型品でも凸凹の誤差は10ミクロン以下なんだって。さっきのトンネル掘削機とは次元の違う凄さなんだわ。
関ケ原製作所さんと石は切っても切れない関係なんだね。
唯一の量産製品 大型油圧シリンダー・アクスル
次は関ケ原製作所の土台を支える、唯一の量産品である大型油圧シリンダー製作工場へ。
大小様々な油圧シリンダーが作られており、今まさに出荷されようとしていた。前編で活躍してもらった生技の問山君の仕事場だよ。
この事業で売り上げ全体の4割を稼いでいる。油圧機器の安定製造があるからこそ、製作期間が長く高額な一点モノの製作ができるんだわ。
これあっての関ケ原製作所ということ。
JR東海から頼られるポジション
そして最後に、この会社のルーツともいえる、鉄道機器製造工場へ向かった。
創業当時からの主力になっているのが線路の分岐器。電車が線路から隣の線路に移り進むときに通る、ポイントと呼ばれる部分だよ。
昔鉄道模型で遊んだり、電車の一番前の運転席の真後ろに陣取って進行方向を見ながら運転手気分に浸っているときに、ツ、ツーンとかいって電車が隣の線路に移るのを、なんだかドキドキ見守っていたことを思い出したよ。(山じいは乗り鉄ではありません!!)
関ケ原製作所は国鉄・現JR東海との創業以来の関係性と技術力の高さから、色々な無理難題を持ちかけられる。他社さんが嫌がる様な複雑で小ロットで前例がない機械でも受注してしまうゆえにJRの実験工場とまで言われているらしい。
技術の関ケ原製作所だね。ここにも凄技があったわけだ。
ちょうど出来上がり間近のオーダーメイド品「ボルト緊解機」が置いてあった。これも他社さんのお断り物件。
新幹線の枕木を留めているボルトは定期的に締め直しをしてトルクの管理をすることが義務付けられている。
でも2004年の新幹線脱線事故をきっかけに敷設された脱線防止ガードがこのボルトを隠してしまい、深夜の保守作業がすごく大変になってしまいJR東海から相談があったそうだ。
このボルト緊解機を線路の上に走らせるとボルトを自動的に緩めて締めるだけでなく、1本づつトルク値を計測して作業後は手軽にPCヘデータを移し、デジタル値として残せる優れもの。
試行錯誤で生まれた製品は全て特許を申請して利権を確保するそうだ。
JR東海との共同開発品だけど他社にも展開できる契約になっていて、今後は他のJRや私鉄、更には海外も視野に入れている。
鉄道の安全性と安定性を支えているんだ、すごいね関ケ原製作所!いやぁ~~最後まで「へぇ~っ!!」を連呼していた今回の工場見学だった。
地域に開かれた会社
工場見学の後は、伊吹山を仰ぎ見ることのできる(取材日は残念ながら雲の中だったが)社内のカフェへ。
もう3月だというのに伊吹おろしなのか、何なのか天気予報にない小雨がパラついていて寒かった。
地元の木材で作り上げられたログハウス風の素敵なカフェ 「mirai」で小休憩。
薪ストーブの優しい温かさに包まれながら、淹れたてのグァテマラ珈琲を頂いていると
カウンターに座っていた品の良いおじいちゃん(近所から来た一般のお客さんだと思っていた)が、すすーっと近寄ってきて「矢橋です」とご挨拶された。
えっ!!なんと二代目のお出ましであった。
今は相談役を務め、会社の寮の一室に住んでいるそうだ(いつも研究室で寝泊まりしている山じいはシンパシーを感じる!)。
2代目社長はオイルショック不況のさなかに会社を受け継ぎ、3度の経営危機を通して関ケ原製作所の基本理念や目指すべき姿を策定し、実現に向けて尽力された方。
その取り組みが今日の関ケ原製作所、会社の明るい雰囲気や敷地内の美しい公園、研修制度や交流イベントの取り組み、このカフェに現れている。
会社はみんなのものってどういうこと?
嬉しい邂逅によって現社長の叔父にあたる2代目にも同席していただき、社長と役員の想いを伺った。
関ケ原製作所は1946年に社長の祖父にあたる矢橋五郎氏が創業したオーナー企業(同族経営ともいう)。
社長はこのオーナー企業という言葉に非常に敏感であり、オーナーと呼ばれることを嫌われている。オーナー企業のオーナーであることには違いないのだけれど…
矢橋家の家訓に「陰徳を詰め」「商売に頼るな」「書画骨董に親しめ」がある。
この家訓から2代目が目指された会社が「人間ひろば」。
易しい言葉だが深い意味がある。会社はオーナーの物ではなく、そこに集い働く社員のものであり、皆で稼いで皆で分かち合う。その為に社員が「人間力」「技術力」を磨くことで、会社を面白い場所にしていく。これが2代目の考えた「人間ひろば」なのだそうだ。
2代目の甥っ子である現社長はその想いを繋ぎ、日々格闘している。
まず驚いたのが社長の経営方針。「目指すは売上150億、従業員数400名のモノづくり企業」っておいおい、現状維持ですやん??何、それ??って思うのは企業経営のなんたるかを知らないどこぞの大学教授なんだよね。
普通のサラリーマン社長ならば当然右肩上がり経営を目指すし、上場企業であれば株主が黙っていない。
だ~から、オーナー企業だというのよね。っと、最初は思ってたんだけど、違ったんだよこれが。
経営危機から学んだ"人"重視理念
関ケ原製作所はこれまでに3回の経営危機に見舞われた。
1回目は70年代のオイルショック時の造船不況、2回目はプラザ合意による円の急騰、そして3回目がバブル崩壊だった。
1回目の経営危機は相当なものでリストラもやむを得ず、何とか切り抜けたものの社員の中に深い傷跡を残したそうだ。人を解雇するということは厳しい事なんだな。
その教訓から人を犠牲にしない経営の探求を始め、2回目、3回目の経営危機ではリストラをせず社員一丸となって乗り切ったそうだ。
給料を上げられない中で社員から出てきたのが「せめて明るく愉しい会社にできないか」という声。
そこから新しい会社のあり方を社員全員が主役となって模索し、実行してきたそうだ。だから、「大きくなんてならなくって良い、売り上げも現状で十分だ!!利益追求型ではなく愉しく働くためにニッチな業界を極めたい。関ケ原製作所の技術の粋を集めて皆がアッと驚くような一点モノを作りたい!」 と考えているんだってさ。
いやぁ~面白い会社だよね。素敵な考え方じゃないか!!
ヨーロッパ旅行に全社員で行く?!理念は机上の空論ではなさそうだ
そうなんだよ、売上を今の倍にしたければ面白くない仕事も受けなければいけないし、働き方にも無理が出る。
ここに集う人たちが愉しく暮らして、世の中の役に立つものを作っていられればいい。会社を大きくしないってそういうことだよね。
なんだか関ケ原の地もあってか、ここが産業界のブータンの様に感じられてきた。
ブータンのGNH(Gross National Hapiness 国民総幸福度)がこの関ケ原製作所にもあるように感じるのは山じいだけか…?
アハハ、ちょっと違うかな?矢橋社長に叱られそうだ。
関ケ原製作所はこれまでヨーロッパや中国、北海道などへ8回も会社を閉めて社員総勢で研修旅行に行ったそうだ。なんだか幸せの観点が違うんだよな。
400名での大移動だから、飛行機はもちろん数台をチャーター。ヨーロッパだとざっと一億使うらしいよ。
こういうのって2〜30名の中小企業ならたまに聞くけどさ、それでもタイとか香港ぐらいだよね。
400名でヨーロッパ旅行って、やっぱりおかしいよ!いや~、オーナー企業!オーナー太っ腹だわ!!って言ったら叱られた。「そうじゃないんですよ、みんなで頑張って稼いだお金だから、みんなで使うんだってね!」
これこそ社会主義企業???ホント山じい恐れ入りましたわ。こんな会社見たことない。
そんな社長の想い・語りを静かに微笑みながら聞いてみえた二代目社長が、頼もしげに、やはりこいつに任せてよかったわ、とでも言いたげに、社長の事を見つめておられたのを山じいは見逃さなかったよ。
チームセキガハラはまだまだ進化する
しかし、余りに理念が高尚過ぎて従業員の皆がついていけているのか、ちょっぴり心配になった山じいであった。
問山君、理解できていますか??三谷君はまだ無理だろうな。社長のことボンだって言ってたもんね。
それは社長も危惧しておられ、数年前から「経営塾」なる勉強会を社員のそれぞれのカテゴリー層に向けて開催しているそうだ。
経営が社長の独りよがりになっちゃいけないもんね。
今後ともオーナー家は関ケ原製作所を見守る立場なんだってさ。だから次の社長にはまたプロパーの社長になってもらうそうだよ。それは皆やり甲斐出るよね。
どこかの傘下の企業だと社長は親会社からの落下傘部隊…なんて、気合入らんものね。面白いぜ、関ケ原製作所。
名工大生よ、こんな会社で楽しい社会人生活を送ろうぜ!
山じい
株式会社関ケ原製作所
1946年創業、岐阜県不破郡関ヶ原町にある機械メーカー。超大型と超高精度を得意とし、開発から設計、製造、品質管理に至るモノづくりを一気通貫で行なっている。日本一のニッチのデパートを志し、他社には作れないオーダーメイド品を多種多様に手がける。社員ひとりひとりの自己実現が会社の存在価値向上に繋がるという思想から人材教育に非常に力を入れている。100年企業を目指し、製品の量ではなく付加価値を高めるための新事業開拓、技術伝承施設の建設にも着手している。
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