おもろい企業探索ツアー第20回は、『メイラ株式会社』。
このシリーズは名古屋工業大学に縁のある企業を訪問して、社長や役員、名工大卒業生に話を聞き、山じいの視点からその魅力に迫るという企画です。では後編をどうぞ。(前編はこちら、過去の特集一覧はこちら)
3分野への事業展開による安定した経営体制
メイラのおもろいところは、前編で伝わったかな? 所詮ネジなんだけど(メイラの皆さんすみません!)メイラのネジは、どこの会社でも作っているような車用のネジだけではない。
戦後は車事業でなんとか再生した後、創業のきっかけである航空宇宙産業事業を再展開し、さらにはその技術力を生かして、骨折時の骨接合用プレートやスクリューなどの医療分野にまで進出。
高い技術力でさまざまな業界に進出しているから、景気が悪くなっても、どこかの分野が引っ張ってくれる。とても安定した事業構造になっているんだ。この「天(航機)・地(輌機)・人(メディカル)」の三位一体型経営が、まさにメイラのおもろいところなんだよ。
山じいはメイラを自信をもって本学学生に薦められる。だけど、いかんせん、作っているものが「ネジ」であることは紛れもなく、ホームセンターで一袋100円で売っているネジと見た目はそんなに変わらないんだ。当たり前だね、ネジなんだから。
用途によって作り方が全く違う!半日ネジ工場探索で実感
そんな見た目では分からないけど、すごい技術によって作られているネジの工場が、岐阜県関市に4つある。
それらをなんとこの会社のトップである大橋社長自らにご案内いただきながら、4時間半も巡り歩いた。各工場では、名工大OBの皆さんが説明をしてくれたんだ。
どの工場でも作っているのは「ネジ」なんだから、全て工場を回らなくとも、1つの工場だけ見せてくれたらOKじゃないかと、最初はそんな風に考えていたんだけどね。だけどね、これが全然違うんだなあ……
昼から4つの工場を回り、終わった頃には日が傾いていたんだけど、全然飽きることがなかったんだ。思わず「へぇー!!」と声を上げてしまうような驚きと感動の連続だったんだ。
天(航機)、地(輌機)、人(メディカル)で作っているネジは見た目は同じだし、「物と物とを結びつける」という役割も同じなんだけど、それぞれ作り方も、材質も、そしてもちろん、その機能も全く違うということが勉強できた。
そんな4つの工場で作られている、それぞれのネジを紹介しよう。メイラの輌機の製造を担っている「メインファクトリー」と、航機とメディカルの事業部がある「第2工場」は、関市の市街地の南側にある丘陵地帯に位置する工業団地に鎮座している。周りにはブリヂストンやメニコンの関工場がある大きな工業団地だ。
輌機と航機の機能性の高いネジを作っている「第3工場」と、セキュリティーが一番厳しい航機メインの「第4工場」は、先の工業団地から関の市街地を挟んだ北側の丘陵地にある。
まずはネジの各種物性や品質を分析する試験室に案内していただき、うちの金属出身の今井さんにネジの見所、調べ所についてレクチャーしていただいた。
工学部生必見のドラマ『下町ロケット』とメイラの共通点
さて、それでは第3・4工場へ移動するとしよう。特殊なメディカルのネジを作っている第2工場は後の楽しみに取っておいて、早朝鵜沼駅までお迎えいただいたHondaレジェンドに大橋社長と乗り込み、人事の丹羽さんの運転で関の街を通り抜けて第4工場へと向かった。
車中では大橋社長からいろいろとお話を伺った。その中の一つに、『下町ロケット』の話があった。皆は、TBSの日曜夜の人気ドラマを知っているかな? あの、「倍返し!」で有名な半沢直樹の作者、池井戸潤氏原作のドラマだ。阿部寛さんと土屋太鳳さんが演じていたドラマだよ。あのドラマに登場する佃製作所は、「バルブ」という流体を制御する小さな部品を作っている町工場だった。
佃製作所はバルブ作りに関してはスペシャルなノウハウを持っていて、技術力を駆使して、「天」のロケットエンジン、「地」の自動車エンジン、「人」のメディカル分野に進出していた。
天・地・人という事業展開は、メイラと同じじゃないか!バルブがネジに代わると、メイラだよ。天・地・人がそろうとモノ作りは、あんなにおもろいテレビドラマになるんだな!!
少し調べてみると池井戸潤さんは岐阜県八百津町出身。母校は関の隣町にある岐阜県立加茂高校なんだ。
さらに、「佃製作所のモデル企業は存在しない」と言われているけれども、佃製作所の工場のシーンは実在の工場で撮影されており、東京の大田区(町工場のメッカ)にある株式会社桂川精螺製作所なんだ。おいおいおい、ネジ屋さんじゃないか。これはもしかするともしかするよー!? 話が脱線してしまったけど、メイラはあの人気ドラマと同じくらい、おもろい企業さんなんだよ。
航機用ネジを削り出す大型切削マシーンの中を覗き込む様子
工作機械で削り出す航機用ネジ
下町ロケットの話で盛り上がっている間に、レジェンドは第4工場へと到着。ここでまず驚いたのがセキュリティーの厳しさと、温度管理の徹底ぶりであった。
第4工場は飛行機やロケットなどの精密機械加工部品やネジを作っている工場。セクションによっては社長も自由に入ることができないほど。国防がかかってくると本当に厳しい世界になることを実感した。それがたかがネジであってもだ。
工場全体の温度管理ができているのにはホントびっくりだった。「工場=熱い+うるさい+危ない」っていう所は未だに多い。設備投資が進んでいる会社でも、人が働く場所だけをスポットクーラーで冷やすのが関の山だよ。それが、ここでは全館空調だもんな。ネジの寸法がいかに大事かよく分かるよね。
そして何より驚いたのは、第4工場の製品は鍛造加工ではなく、5軸の工作機械や複合加工機による切削加工で作っていることだった。鍛造加工後の処理として削るのではなく、端っからTi合金やNi基合金を削っていくんだ。これには本当にびっくりだった。それだけ宇宙・航空に使われる製品は違うってことだね。 最近では切削加工する際に使用するエンドミルという工具の自社開発もしているそうだよ。
冷間鍛造で量産している輌機用ネジ
次に向かったのは隣にある第3工場で、ここの輌機用のボルトの量産設備では、なんと毎分300本も作り上げていた。ここはもう「THE ネジ屋さん」という感じだった。かつて本連載で紹介した春日井市の「株式会社三ツ知」とよく似た工場でガンガン、ネジを作っていた。
この量産のネジは、ネジ山をバイト(切削工具)や刃物タップで切るのではなく、転造加工(塑性加工)なんだ。メインファクトリーやここで生み出される製品がメイラの売り上げを支える屋台骨。
その作り方は第4工場の手作り感のある航機用ボルトとは対照的であった。見た目はそんなに違いがないんだけどね。
第3工場は表面処理設備(つまりはメッキだね)を併設していた。メッキ処理はシアンなどの有害化学物質が出て、その廃液の処理がとても面倒だから、専門業者に任せる会社が多いんだよ。
ただ、メイラでは扱っているネジが単なる自動車に使われるようなネジだけでなく、国防に関わる戦闘機のネジであったり、自動車レース最高峰のF1に搭載されるネジであったりするので、排水処理というリスクを背負ってでも、自社内でやりきらねばならない。工場の外に巨大な排水処理施設があったことからも、メイラの力の入れようが理解できた。
関市が今アツい?!
さて、第3工場の見学を終えてレジェンドで第2工場へ戻る道すがら、関や美濃の話をしていたかと思っていたら、突然、大橋社長「先生、関には今年トレンディーな話題があるんですよ!!」「実はあの大ヒット上映中 の『鬼滅の刃』の主題歌を歌っているLISAさんは関の人なんですよ!」と教えてくださった。
おお、なんと関からレコード大賞受賞者が出たのか。山じい、鬼滅の刃にはあまり触手が動かなかったが、LISAさんの歌っている主題歌「炎」は好印象であった。東海地区出身だということは聞いていたが、関でしたか……。それをまた得意げに話される大橋社長がとても近しく感じられた。運転していた人事の丹羽さんも話に入ってきて、「社長、うちの社員に彼女の友達がいるんですよ!!」だって。おお、やるやん、メイラ!!
高強度が求められる航機の特殊ネジは熱間鍛造で加工
そうこう世間話をしながら、昼ごろ素通りした第2工場へ。ここは近年メイラが力を入れている航機とメディカル事業のために、もともと木工工場だったものを買い取り作り替えた工場だそうだ。
ここでは骨接合プレートとスクリューのメディカル事業と第4工場と同じ航機用のボルトを製造している。
第2工場で作られている航空機用ボルトは、第4工場のような切削加工ではなく、なんとTi合金やNi基合金の熱間鍛造加工で作られていた。
ここで作られるボルトは各種航空宇宙のエンジンのとても重要な部分で使われるので、最高強度を必要とするんだって。だから冷間鍛造ではとても成型できないそうだ。
ここまで、自動車や飛行機のボルト作りをじっくりと見学してきた。形はどれもボルトなんだけど、それぞれに材質から作り方まで千差万別、ホント、ネジの世界は奥が深いわ!!
日本人の骨格に合う"国産整形インプラント"の需要に着目
最後に見学したのが、先に紹介したあの内藤部長が綿密にその品質を管理している、メディカル事業部だ。一般的なネジとは形も材質も違なるが、物と物とを接合するという役割は同じ。山じいの左肩にも、山で滑落して折れた骨を繋いだTi合金プレートがはまったままになっていて、とてもシンパシーを感じる工場であった。
メイラが得意としているのは、手首の骨折の治療に使用される橈骨(とうこつ)プレートで、じいさんやばあさんが転げて手を突いたときに簡単にポキッと折れてしまうことから症例がとても多いそうだ。
元々この分野では国産品の参入が出遅れていて、世に出回っているものは国外ものが多かった。でも、国外ものは日本人の骨格には大きすぎて使いづらいそうだ。だから日本企業の参画を医療関係者は待ち焦がれていたそうだよ。素材は高強度、軽量、そして生体適合性の高いTi合金。そう、メイラが航機事業で腕を磨いてきたセクションだ。
5軸の切削マシーンで丁寧に削り出すメディカル用のネジとプレート
相手がTi合金なんだから鍛造成形は不可能で、5軸マシンを駆使して一枚の金属から削り出すんだ。もちろん、この骨接合プレートを骨に固定する役目のネジ(この場合はスクリューと呼ぶ)も同様に切削成形されている。だからどれだけ日夜を問わず作っても、月産3万本が限界。
航機のボルトで14万本/月、輌機のボルトでは2億本/月であることを考えると、どれだけ丁寧に作られているかが分かって感心させられるね……。
プレートとスクリューだけでなく使いやすいドライバーや安全に使用するためのガイドパーツも併せて開発している
装着に必要な器具まで開発できるメディカル事業
一枚ごと、一本ごとに全量チェックされていて、菌やほこりを同梱しないようにクリーンルームで梱包される。さらにその後、外部の専門業者にて梱包状態のまま放射線処理して滅菌してから出荷されるんだ。こりゃホームセンターには置いとけんわね。
さらに、メディカル事業ではプレートの開発だけでなく、装着するための手術器械とその使い方も開発をしている。
メディカル事業では、神の手を持つドクターと共同で製品を作り上げていくんだって。そういうゴッドハンドドクターに気に入ってもらうこと、これはメディカルの営業に限らず、技術者においても大事なことらしい。
でも実際に製品を使うのは一般ドクター。そういう普通のお医者さんに便利に使ってもらえるものとして、卸していくんだって。いやぁーなんだか大変な世界だなぁ……白い巨塔の世界だ!! こりゃ心臓に毛の生えた、内藤部長じゃないと務まらないわ。
実際に体験させてもらった
メイラのインターンシップに参加すれば、実際に模擬骨にプレートを装着する体験ができるんだ。今回は特別に不器用な山じいも体験させていただいた。装着する際には複雑で特別な治具を駆使することになるんだけど、山じいのような素人でも何とかなるものでした。これはみんな一度、工場見学に来てやらせてもらうべきだわ。
本当に奥深い...機械の三大要素 ネジ
……といった風に、四つの工場を半日かけて全て回ってきた。最初は「たかがネジでしょ」って思ってたんだけど、違ったわ!!あっという間の時間だった。
確かにどれを見てもネジなんだけどね、どこに使われるかでここまで作り方や材質が違うんだって、新しい発見がいっぱいあったんだよ。さすが「天・地・人」だと感心しきりの工場見学でした。この凄さは、聞いてるだけでは分からないと思う。このブログ読んで興味持った人は、ぜひ人事の丹羽さんに連絡して工場見学させてもらうと良い。目から鱗だよ。丹羽さんの連絡先はこちら s_niwa154778@meira.co.jp
お忙しい中本学OBに全員集合していただいた歓談のひととき
メイラで活躍する名工大OBを紹介
では最後にメイラで頑張っている我らが名工大OBの面々を紹介しよう。
現在在籍しているOBは8名で、機械2名、金属3名、セラミック2名、化学1名という布陣だ。ま、妥当な配分かな。山じいが不満なのは、これだけおもろいネジ作りをしているのに、在籍OBの最年少である余語さんが入社した後、10年間も名工大生の採用ができていないっていう点だ。なんでだろう?
このことについて彼らに問いかけたところ、「リーマン・ショック以降ここまで、景気が良くって採用が売り手市場だったからじゃないかな!」だって。何それ!? 皆さんは行くところがなかったから仕方なくメイラに入ったんですかって、突っ込んでしまいましたわ。なんだろうなぁ。やはり少し自信がないんだよね。自分の仕事にはゴッツイ自信あるのにね。これじゃあイケナイな…
メディカル事業部で活躍されている内藤さん
一番手に紹介するのは、名工大OBのうち、最年長ながら一番お元気で、山じいとも気の合うメディカル事業部の内藤部長だ。メイラには1995年入社で、名工大 機械工学科をなんと6年もかけて卒業された御仁だ。
学生時代はきっと麻雀やパチンコにご執心だったのかと邪推したが、ひたすらアルバイトに明け暮れていたそうだ。塾の講師や家庭教師、ナゴヤ球場(当時は中日ドラゴンズの本拠地)で売り子のアルバイト(いや可愛くない売り子だなぁ…)をし、その給料でなんと学生時代に新車のパジェロを買ったんだって。
車を含め機械全般が大好きで、ま、6年もかかって名工大 機械工学科を卒業するんだから、よほど好きなんだよね。就職は食いっぱぐれがないように、機械の三大要素(歯車・ベアリング・ネジ)を作っているメイラを選んだそうだ。
だからもちろん配属部署は、車好きとしては、輌機事業…と信じていたんだが、蓋を開けてみたらまさかのメディカル。アリャリャだったそうだけど、内藤さんは「好き嫌いをすると人生の半分を損する」という信条をお持ちだったので、アルバイトでパジェロを買った、当時のガッツで仕事に取り組んだそうだ。その結果が、今や押しも押されもせぬメディカル分野の部長さんというわけなんだ。
試験室で製品の品質管理に励む今井さん
もう一人は、工場見学の折に最初に試験室の説明してくれた今井さん。入社20年目の金属出身のOBだ。もともとメディカルに興味があって、彼が入社する少し前にメイラがメディカル分野に参入したというニュースをパンフレットで知り、これは良いなと応募したそうだ。
そして会社訪問してみたら、関の田舎での仕事のせいか、みんなゆっくりと仕事をしているように目に映ったんだって。今井さんは思い通り、メディカル分野に配属され、満足だったそうだけど、入ってみたら仕事は見た目ほどマッタリしているわけではないことに気づいたらしい。当然だよね、会社だからね。でも、今でもここの雰囲気が好きなんだって。
今はメディカル事業部から異動して、試験室で頑張っている。試験室って、アカデミックな仕事が多いので、ここはここで居心地が良いそうである。
応用化学専攻出身 樹脂コーティングのネジ作りに貢献した小原さん
そして殿(しんがり)は、山じい所属の応用化学出身の小原さんだ。もちろん彼は山じいの授業も受けていた。もう20年近く前になるんだけど、珍しく学生時代の彼を覚えているんだ。普通山下研以外の、特に男子学生の記憶は、卒業とともに消去されるんだが…多分彼の周りの学生が印象深かったんだと思う。
物静かな小原さんなんだが、人事の丹羽さんが山じいの研究室を訪ねて来られたとき、同伴されていたんだ。ま、生命出身だからね、山じいへの道先案内人だね。
彼はもともとIT系を目指して就活をしていたんだけど、思い通りに進まなくって、ふと目にしたパンフレットにあった、メディカル事業に惹かれて(さすが化学系だね!)家からも通勤可能だしエイヤで決めたんだって。だけど入ってみたら、今度は内藤さんとは反対に、輌機事業部へ配属されたと…。なかなか自分の思うようにはならないもんだよ、人生ってのはね。
でも、彼は化学系の出身であったことを生かし、メイラで最初の樹脂コーティングのネジ作りの生産体制を作り上げることに成功。さすが化学系出身、山じいの高分子の授業もきっと真面目に受けてたんだろう。だから樹脂コーティングにはスムーズに溶け込めたらしいわ。
そして今年念願の(20年もたってまだ念願かどうかは??だけど)メディカル事業部へ配置転換があり、先程紹介した、プレートのねじ留め実体験は彼が説明してくれたんだ。気合いを入れて新しい職場で、骨接合プレートの設計を頑張っているそうだ。頑張れ、小原!!
名古屋工業大学OBと大橋社長
いや~今回は、大橋社長や名工大OB諸君全員に出迎えられ、よい勉強をさせてもらった。メイラの工場見学、最初はたかがネジって思ってたけど、されどネジだった。
さすがに機械の三大要素と言われている部材であり、そんなスペシャルなネジを作っているメイラは、天・地・人で、めっちゃオモロイ会社さんでした。
社長、長々とお付き合いいただきましてありがとうございました!
文 山じい
編集・撮影 つかっちゃん
1932年創業、名古屋市に本社を構えるねじメーカー。航空機用のねじから始まり、自動車、医療分野へと事業を展開。高品質なねじの製造によって製造業を支えている。非常に高い技術力が評価され、F1マシンのエンジンや人工衛星打ち上げロケットにまで製品が採用され、また海外にも子会社を持ちグローバル化も進んでいる。
問い合わせ先 採用担当 丹羽さん s_niwa154778@meira.co.jp