おもろい企業探索ツアー第21回は、『リンナイ株式会社』。このシリーズは名古屋工業大学に縁のある企業を訪問して、社長や役員、卒業生に話を聞き、山じいの視点からその魅力に迫るという企画です。では後編をどうぞ。(前編はこちら、過去の特集一覧はこちら)
機械・電気・情報専攻の学生にもっと入社してほしい
名工大生が毎年複数名入社していてOB・OGが160名も在籍するリンナイが、何故今「おもろい企業探索ツアー」に協力してくれたのか、とても気になっていた。その理由は前編でも触れた通り、機電の学生にもっと入社してほしいということであった。
食品メーカーや素材メーカーであれば化学・材料系の学生に人気が出るのも頷けるが、リンナイはれっきとした機械メーカーであり、ガスコンロや給湯器といった精密な機械を作っている。
リンナイが化学や材料系の学生に人気の理由はなんだろうか? キッチンや浴室といった、女性が関心の高い製品を作っているからだろうか? いや、リンナイに在籍する名工大卒業生のうち女性の比率は決して高くない(これはこれで課題)。
ではなぜ化学や材料系専攻出身者が多いのか? この傾向は堀田に本社を構える競合企業のガス機械メーカーにもある。しかし、同じように身近な機械製品を一気通貫で作る安城の電動工具メーカーにはなく、機電出身のOBがたくさん在籍している。
リンナイの特徴
リンナイを一言で表現すると「普段使いできる生活に身近な機械製品を幅広く開発し、素材から製造・販売まで一気通貫でモノづくりをする機械メーカー」と言える。
リンナイの特徴をさらに細かく分解すると、次のようになる。
【作っているもの】
・給湯器・ガスコンロ・衣類乾燥機・食洗器・マイクロバブルバスなどのバスユニット
【作り方】
開発、設計、製造、販売、メンテナンスまで一気通貫のモノづくり
【会社概要】
・業界トップ
・開発製造拠点は全て愛知県内
・創業100年になるツインヘッド(林さんと内藤さん)のオーナー企業
こういった特徴のあるリンナイについて、同社重鎮のみなさんからお話を伺い、さらに詳しく解析していこう。
お時間をいただいたのは、製品開発の中島開発本部長とリンナイのメイン工場である大口工場のトップ小島工場長、そして、リンナイのモノづくりの一番の肝を押さえている井上生産技術本部長のお三方である。
開発本部長 兼 技術管理部長 中島さん
給湯器とガスコンロに留まらない 生活を豊かにする製品開発
開発の総大将・中島開発本部長は、「リンナイのおもろいところは、業界トップシェアを誇る給湯設備やキッチンコンロの売り上げによる安定した財務基盤を活かして、キッチンや浴室、リビングといった身の回りで使う機械を自由に開発できる風土があるところ」だと語ってくれた。そんな開発に携わることのできるおもろさは半端ないだろう。
さら湯と比べてマイクロバブルのお湯は洗浄力や保湿力を高める効果がある
例えば、リンナイの売上の6割を占める給湯器開発の流れから生まれた、浴室システムは、大手ハウスメーカーとコラボレーションしている。浴室内TVからマイクロバブル発生装置の付いたバスユニットまで、幅広く開発しているんだ。
えっ? なんで、熱エネルギー機器メーカーがマイクロバスユニット開発?? さらに浴室内テレビ? ガスはどこ行った??って思うかもしれないが、大事なことは浴室でのくつろぎをどう実現するかということ。自社でやり切れないものについては専門のハウスメーカーと手を組んで共同開発をしているそうだよ。大手ハウスメーカーに信頼される技術力、それがリンナイの実力だと思う。
さらにガスコンロから派生したキッチンユニットとして、食洗器の開発も行っているそうだ。初めはガスで沸かしたお湯による洗浄を考えて開発したけど、今では全くガスに関係のない、電化製品も数多く作っている。
もう一つは、ガスファンヒーターの技術を土台にした、洗濯物を乾かすガス衣類乾燥機「乾太くん」。近頃テレビのコマーシャルで流れてるよね。この乾太くんに関しては、前編で開発20年のベテラン、名工大OBの山本さんも語ってくれた。
電気式に比べて衣類を圧倒的な熱量で特急で乾かすので、ふわふわの仕上がりになるそうだ。
乾太くんはリンナイらしい機械だが、最初は某大手ガス会社のOEM製品だったそうだ。当時はあの天下の松下幸之助の会社と競っていたそうだが、市場の伸び悩みから大手家電メーカーは乾燥機事業を撤退。今はOEMではなくリンナイのヒット製品になっている。
衣類乾燥機はこれから発展が期待できるコインランドリー向けに大型業務用製品も展開を考えているそうだ。これから入社する技術者諸君にはやりがいのある開発目標になるんじゃないだろうか。
生産本部 大口工場 工場長 小島さん
売り上げの6割が給湯器 3割がガスコンロ
次にお話を伺ったのは、小島工場長だ。開口一番、率直に思っていることを聞いてみた。「業界トップの基幹工場の工場長を務めるのって、いかがですか?」。なんとまあ、失礼な質問の仕方だが、小島さんは笑いながら、「感謝の気持ちでいっぱいです。リンナイをここまで成長させてくれた先輩諸氏、そしてこの工場で働いてくれている従業員の皆さん、そしてリンナイ製品を買ってくれる消費者の皆さんに感謝しかありません」」と答えてくれた。
工場長の方って、謙虚な人がとても多いんだよな。これまで数多の工場長に話を伺ってきた山じいの感じるところだ。そして、工場長さんは生産技術上がりの人が多い。小島さんもまた然り。生産技術って結局、製品を効率よく品質よく作り、世の中に出していくことが一番の使命。つまりはメーカーの儲け頭なんだよな。それに比べて、学生諸君がやりたがる研究開発業務は、当たらなければただの金食い虫。
生産技術はそれだけ重要なポジションだから責任もとても重く、それを背負うことのできる力量の持ち主にしかできない職務なんだ。
大口工場ではガスコンロを素材のプレスから製品の仕上げに至るまで、一貫生産している。コンロは全体の売り上げの3割なんだから、リンナイのメイン工場は売り上げの6割を占める給湯器の生産をしている瀬戸工場じゃないの?と疑問に思ったので伺ってみた。
小島さん曰く、「瀬戸工場は多くの子会社を従えていて、みんなで作り込んでいるので、一工場での売り上げは大口工場が一番なんです」とのことだった。
給湯器とガスコンロ 技術的に高度なのは?
さて、ガスコンロと給湯器どちらを作るのが難しいか、分かるかな? 小島さんによると、「給湯器の方が断然難しい」とのこと。まず扱う熱量が桁違い。ガスコンロの3,000kcal/hに対して、給湯器は30,000kcal/h以上。ガスと水、2つの流体制御と熱伝達設計が必要なんだそうだ。
単純にお水を沸かしているだけの製品に思えるけど、考えてみればそうだよね。蛇口をひねれば、冷たい水を瞬時に熱いお湯に変えるんだから、すごい機械だよ。熱力や流体工学好きには、たまらないメカだろう。もちろん儲けも断然給湯器の方が大きい。
リンナイを目指す人って、どちらかというとデザイン性があって、見栄えのするガスコンロに興味を持つ学生が多いんじゃないかな? 給湯器が重要な事業であることを踏まえてリンナイを勉強し直すと、面接で深イイ話ができるだろう。
拠点を集約して無駄をカット
もう一つリンナイの特徴である、「Youはどうして愛知県内??」についてなんだけど、これは偶然ではなく意図的に集約されているんだ。
コンロを作るにも、給湯器を作るにも、必ずその部品を作ってくれる協力会社(サプライチェーン)が必要。製品の輸送を考えて日本各地に工場を配置すると、それに伴ってサプライヤーも各地に配置する必要がある。しかしリンナイは拠点を愛知に集約しているので、サプライヤーの数を絞ることができ、品質のバラつきも抑えられているんだ。
愛知県内に盤石な体制を築いた結果、東海地区の理系学生には「働きやすいメーカー」として認知されてる。誰しも、慣れ親しんだ土地の方が働きやすいものね。
生産技術本部長 井上さん
製品作りに集中できるフラットな人間関係がウリ
最後にお話を伺ったのは、これまた生産技術の本部長、執行役員でもある井上さんだ(やはり生技は出世するんだなぁ…)。
井上本部長も小島工場長も、これからのリンナイについて「コンロと給湯器の売り上げに関しては、この売上比率を変えることなく、さらに生産効率と品質向上を目指していきたい。だからこそ、機電や情報の学生がこれからのリンナイには必要なんです」と力説されていた。
そして井上本部長はさらにシステムインテグレーターが欲しいんだって。情報工から学生を採用してリンナイの生産システムに新風を吹かせたいそうだ。
大口工場を見学させてもらって山じいも工場内の人口密度の高さが気になった。まだまだ効率化できるところがあるんじゃないかって、素人考えを生技のプロにぶつけちゃったよ。
そしてさらに聞いちゃった。「リンナイの生技の特徴は何ですか?」。あはは、これ一番難しい質問だよね。リンナイだろうが、トヨタだろうが、目指すところは一つ、効率化と品質向上だよね。さすがに井上さんも返答に困ってみえた。「なんちゅう質問するんや!」ってね。
でも、井上さんのお話を伺っているうちに、リンナイの生技は、「しっかりとした財務基盤に則ったモノづくり」と「役職を超えたフラットな職場」だということが、伝わってきた。任された仕事を自由にやり切ることのできる職場環境、これは前編で紹介したOB諸氏も語っていたなぁ。「自分の製品をフラットな環境で作ることができる、とても働き甲斐のある職場ですよ」って。
開発と生産技術の有機的な連携でより良いモノづくり
もうひとつ井上さんが強調されていたのが「開発デザインと生技のコラボレーション」だ。開発がユーザーのために良かれとした設計が、量産する段になって、コスト面や組み立て工数の都合で没になるのはよく聞く話だ。
リンナイでは定期的に開発と生技が「デザイン定例会」という打ち合わせをして、生技が示すプラットホームの上で開発がデザインを進めるシステムを採っているんだって。生技は製品作りの効率だけを考えるような暗い仕事じゃないんだ。これはリンナイの生技に限ったことだけではない。結構みんな勘違いしていると思うわ。生技は楽しいし出世できる仕事だよ。あははは…褒め過ぎか!
長期視点の経営下でじっくり製品開発
そして最後に、ちょっと引っかかっていたことがあったので聞いてみた。工場見学のとき、案内の方が「リンナイでは全ての製造ラインが、東から西へと流れてます」っておっしゃっていたんだよ。何か特別な理由でもあるのかと思ったけど、案内の人に聞いてもなぁと思い、そのときはスルーしたんだ。
役員としてリンナイの酸いも甘いも分かっている井上さんなら、いい答えを聞かせてくれるに違いないと思って聞いてみた。冗談半分に「大口工場のラインが東から西へと流れているのは、まさか風水か何かですかね?」ってね。そしたら、井上さんから意外な答えが返ってきた。
「その通り。リンナイの工場、建物は全て風水に則って作られているので、どの工場でも生産ラインの方向や、水回り、はたまたトイレの位置まで、同じように設置されています!」だってさ。
人事の今井さんまでも「だから、どの工場に行っても迷うことなくトイレにも行けるし、仕事もできるんです」って、あっけらかんと言うんだ。
ナントナント、技術の粋を極めたリンナイが、風水を参考にして工場や建物内を設計していたのである。これはオーナーの強いこだわりだったそうだ。井上さんは実家がわりと風水にこだわる家だったので、この風習に違和感どころか、逆に親近感を覚えたそうだ。オーナー会社って面白いよね。オーナーの想いがそのまま会社経営に影響するわけで、リンナイには風水にこだわるなんて古風な一面もあるんだな。
「世の中には大きなファンド会社に株式を握られて、目先の損得や株主の利益だけを優先するような株式会社も多いけど、リンナイは違う。長期の視点で目標を定め、じっくりと技術開発していける面白みがリンナイにはある」と井上さんは力説なさっていた。
これまでたくさんのオーナー企業を見て、オーナーに話を伺ってきた山じいも腑に落ちるお話であった。
どうだい、業界トップの業績で、身近な暮らしに関わる仕事のできるリンナイは、機電の学生にうってつけじゃないだろうか? 特に機電の名工女子! 自分が長く使う機械を作ることのできる仕事、素敵だと思わないかい?
文 山じい
編集・撮影 つかっちゃん
1920年創業、名古屋市中川区に本社を構える熱エネルギー機器メーカー。国内トップシェアを誇る給湯機器だけでなく、厨房機器、空調機器、業務用調理器といった幅広い製品ラインナップを展開。高品質なリンナイの製品は、私たちの身近なところで日々活躍している。海外9カ国でも生産を行い、世界80カ国以上で製品を販売。各国の習慣や環境に合わせた熱エネルギー機器の提供に取り組んでいる。