おもろい企業探索ツアー第15回は、『ミズノ テクニクス株式会社』。
このシリーズは名古屋工業大学に縁のある企業を訪問して、社長や役員、名工大卒業生に話を聞き、山じいの視点からその魅力に迫るという企画です。では前編をどうぞ。(過去の特集一覧はこちら)
"地域くくり企業研究会"は発見と出会いの場
みんなは学内セミナーの「地域くくりの企業研究会」を知っているかな。
SCREENホールディングスの人事を発起人とした「京都くくり」に始まり、岐阜くくり、三重くくり、岡崎くくり、浜松くくりと産業の集積する地域の企業が一堂に会して、さまざまな業界・企業と出会えるセミナーだ。
就活を始めたばかりの頃は、どうしても知名度の高いB to Cの企業や、B to Bでも大企業に目が行きがち。
いやいやいや、世の中の製造業を動かしているのは中堅・中小のB to B企業であって、そういうところでこそ、名工大生の力をガッツリと発揮できる。
特にこの「地域くくり」は、いろんな業界や大・中・小の会社を発見できるセミナーとして重用しているんだ。
その中でも「岐阜くくり」には、エッジの効いた会社が多い。
岐阜県内には、そんなに大きくはないが、繊維・セラミックス・林業・鉱山・飛行機・機能性食品・医薬品など多種多様な業種の企業が散らばっているんだよ。
例年「岐阜くくり」には、イビデン、太平洋工業などの大企業から、アピ、川重岐阜エンジニアリング、関ケ原製作所などの中小企業までバラエティ豊かな会社が出てくれている。
ミズノ テクニクスとは
岐阜くくりセミナーの参加企業の1社に、君たちに馴染みのある総合スポーツ用具メーカーの「ミズノ テクニクス株式会社」がある。
みんな、野球道具やゴルフ道具の「ミズノ株式会社」はよく知っているだろう。
あのミズノの国内製造部門が独立して、2002年に設立されたのがミズノ テクニクスなんだ。
シューズ、アパレル、野球のグラブなどの革製品を中心とした工場は兵庫県に集積しているが、野球バットやその他用具、ゴルフ製品などを製造する本社は岐阜県西濃の養老町にある。
イチローのバット職人として「現代の名工」に選ばれた、あの久保田氏がいた工場だよ。
街道歩きの大事な相棒を求めて
山じいの趣味の一つに「街道歩き」というのがある。
一昨年の秋に心房細動で心不全を患ってから、一番の趣味であった山登りが遠ざかり気味になってしまい、最近は街道歩きでうっぷんを晴らしている。
山の上で身体に負荷をかけている時に、不整脈が起こったら…って考えると山登りは臆病になってしまったのさ。
街道歩きなら、ま、心臓がビックリして止まりそうになっても、自分で携帯を使って119番すればいいから何とかなるでしょ。
当面の目標は「日本縦断」で、北海道の宗谷岬から、九州は大隅半島の先っぽ・佐多岬まで歩いちゃえ!と。
この距離おおよそ3,000km(以外に短いでしょ)ですわ。
今のところ、北海道は宗谷岬から南下して室蘭を回り、大浦湾の西岸八雲町までは踏破。
本州は栃木県の那須塩原を北端にスタートし、西は山口県下関まで歩き切ったのよね。
これで合計1,750kmほど。
あとは九州と東北で完歩になるんだけど、まだまだ先だなあ…。
セミオーダーのウォーキングシューズを求めて
長い距離を歩くのに必要なのは体力ではなく、気力と根性。さらに大事なのが「ウォーキングシューズ」なんだわ。
最近、お気に入りのReebokがヘタってきてしまい、買い替えようとしたところ、これまで購入していたReebokジャズドリーム長島店が閉店して困っていたんだ。
そんなときに、ふと思い出したのが「岐阜くくりセミナー」で親しくなったミズノ テクニクスの人事部次長 山本さんのにこやかな顔だった。
ミズノには、「OD SPECIAL 2」というセミオーダーのウォーキングシューズがある。
自分の足にぴったりのウォーキングシューズを作ってみたい!と思い、山本さんに相談したところ快諾をいただき、今回の取材に至ったというわけだ。
兵庫県宍粟市の山崎ランバート工場を訪問
足の採寸のために伺ったのが、兵庫県宍粟市山崎町にある靴の専門工場・山崎ランバート工場だ。
新幹線で姫路駅まで行き、車で北へ走ること1時間。中国自動車道の山崎インター近くにある、従業員数47名の町工場を少し大きくした感じの工場だ。
え? ミズノの市販の靴をたった47名で作っているの?? って、そういうわけではなく、我々が目にする大量生産のシューズはすべて海外製。
山崎ランバート工場は、主に小ロット生産品や専属契約を結んだプロ野球選手や陸上選手の靴、セミオーダーシューズなど、「ミズノの特別な靴」を作っている。
ミズノの技能職にはゴルフ、バット、シューズ、ウエア、グラブ、用具の商品別に、上からマイスター、クラフトマン1級・2級・3級、技能1級・2級といった階級があり、ミズノ テクニクスはスペシャリストの育成に熱心なんだ。
ここ山崎ランバート工場にはクラフトマン1級までが在籍しており、「靴づくりのプロフェッショナル」たちが Made in Japan の特別な靴を作っている。
靴づくりはロボットにはできない
まずは工場の中をじっくりと見せてもらった。
驚いたのは、靴のアッパー(靴底以外の上の部分)の製造工程で、靴は30種類ぐらいのパーツでできているんだ。
オーダーに従った型に切り抜き、一つ一つをミシンで縫い合わせていくんだよ。
そしてアッパーができたら、ソールと合体させて接着剤でギューっと貼り合わせる。
こんな工程で靴ができ上がっていくんだね。
30種類というパーツの多さと作業の細かさに目が点になったわ。
それと、全部ミシンで手縫いってのもね。
靴の生産はもっと自動化されていて、コンベアの上を流れていく間に出来上がっていくもんだと思っていたら…
増谷工場長いわく「ベトナムの大量生産工場でも、やっていることは同じです。職人さんの数がとんでもなく多いだけ」だそう。
びっくりだよね。全部手縫い!!
靴は生産を機械化するにはあまりにも複雑で、コスパが悪いそうだ。
みんなは2017年にTBSの日曜劇場で放送されたドラマ「陸王」を知っているかい?
役所広司氏演じる「こはぜ屋」の社長が、、おばちゃんたちに足袋を縫わせてたあの光景が目の前に広がっていたんだわ。
靴をパーツから組み立てる工程は、基本的にはどの靴でも同じで、イチローの野球靴であったとしても、市販品と同じように作られるんだそうだよ。
工場内の棚には仕上げ途中の靴があり、それぞれに、聞き覚えのあるプロ野球選手の名前が入っていたのを見て、思わず感激!
プロ野球選手からオーダーがあったときは、シューフィッターが採寸しに行くそうだよ。
そうそう、ドラマ陸王の「足袋モデル」のランニングシューズや、ライバルであるアトランティス社の「RII(ピンクの方)」は、山崎ランバート工場で作られたものだそうだ。
レプリカとして数十足売れたそうだが、どちらの靴もランニングなんかできる代物ではないらしい… 撮影はどうやって行ったんだろうかね?
その他にも、元大相撲力士の小錦の靴(人間の靴とは思えない大きさ)や、F1ドライバーの片山右京のドライビングシューズ、有名プロ野球選手の靴なんかも、博物館みたいに飾ってあって、面白かったわぁー!!
採寸も職人技が光る アナログ方式
工場見学の後は、山崎ランバート工場で最高位のクラフトマン 亀井さんに足の採寸をしてもらった。
レーザーを使った3次元計測マシンのような最新鋭の機器で採寸をするのかと想像していたら、「はい、靴下を脱いでください」って、メジャー持った亀井さんが紙と鉛筆を片手に足の大きさを測るんだ。いやいやいや、職人さんの世界だった。
そんな職人さんに山じいのウォーキングシューズを作ってもらって、ついに昨日「でき上がりました」と連絡が入った。
この前編が出稿される頃には、山じいの手元に届いていると思う。
まずは、つかっちゃんを連れて、名工大から四日市の自宅まで45km歩いてみて、後編に感想を載せようと思う。
ミズノ テクニクスで名工大OBに期待される役割
さて、山崎ランバート工場と足の採寸だけでミズノ テクニクスを語るにはニッチ過ぎる。
やはりここは本丸、養老の本社工場も見ておかねば、と思い、別日に伺ってバット工場とゴルフクラブ工場を見学した。
詳細は後編で紹介するが、いずれにしても工場はマイスターやクラフトマンといった技能者さんたちが働く職場であって、工業大学の出身者が働く場所とは少し違うような気がした。
ここではその辺り、すなわち「名工大生がミズノ テクニクスに入社するとどういう働き方をするのか?」について触れたい。
ミズノは開発・ミズノ テクニクスは製造を基本に共同ではたらく
ミズノ テクニクスは冒頭で触れた通り、2002年にミズノの製造部門が独立してできた会社である。
では、ミズノは何をしているかというと、「運動用具の開発」をメインとした商社のような機能を持つ会社であり、製造には直接携わらない。
実際に用具を作る「クラフトマン」が在籍しているのは、ミズノ テクニクスなんだ。
つまり、ミズノ テクニクスは「運動用具の製造」をする会社であり、新機能を有する運動用具の開発はできない。
だとすると、体育会系出身でスポーツを愛し、運動用具の開発をやりたいっていう名工大生は、ミズノへ行くべきなのか? 答えは否。
工学部の学生を欲しているのはミズノ テクニクスの方なんだ。
だって、物作りをしているのはこちらだからね。
ミズノには、運動科学や人間工学、スポーツ医学などを専攻してきた連中が集まるそうだよ。
だけど、ミズノも製品開発は量産を念頭に置いて進めなければならない。
絵に描いた餅では食えませんもの。
だから製品の開発には、ミズノの開発メンバーと、ミズノ テクニクスの技術者(生産技術や品質管理)のメンバーが協働して当たるそうだ。
名工大の運動好きの就活生には、その工学部センス、つまりは機械や電気の製造装置作りに関しての能力や、化学・材料系の製品材料に関しての知識をフル活用して、「ミズノ本体の開発メンバーと協力し、新機能を有する運動用具の開発をアシストすること」と、「大量生産を担っている海外のミズノの子会社の製造現場の効率をより良いものにすること」に力を注いでほしいそうなんだ。
運動好きの名工大生よ、ミズノ テクニクスでスポーツ振興に貢献してみないかい。
文 山じい
編集・写真 つかっちゃん
後編はこちら
2002年ミズノの製造部門を分社して設立された、総合スポーツ品メーカー。野球、ゴルフ用品、靴、アパレル品など製品は多岐に渡る。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の成型技術を応用したカーボン事業がスタートし、スポーツ用品と並ぶ事業になりつつある。ミズノの創業者である水野利八(岐阜県大垣市出身)の「ええもん作んなはれや」という精神を礎に、時代のニーズを掴み、価値のあるものを生み出すモノづくりの挑戦を続けている。