おもろい企業探索ツアー第21回は、『リンナイ株式会社』。このシリーズは名古屋工業大学に縁のある企業を訪問して、社長や役員、名工大卒業生に話を聞き、山じいの視点からその魅力に迫るという企画です。では前編をどうぞ。(過去の特集一覧はこちら)
熱エネルギー機器メーカーのリンナイを探索
紹介するのは知名度全国区、みなさんご存じ『リンナイ株式会社』。今回の取材では名古屋市中川区の本社ではなく、愛知県丹羽郡大口町にあるフラッグシップファクトリーの大口工場に伺った。
大口工場は名神高速道路の「小牧IC」から目と鼻の先にある。電車でアクセスするには少し不便な土地だが、工場としては大変利便性に富んでいる。今回は愛車の日産KICSで出掛けたが、スムーズに国道41号線を北上できたお陰で時間より少し早めに着いてしまった。
駐車場で車から降りるやいなや満面の笑みで出迎えてくれたのは、人事採用担当の今井さん。華奢で長身、素敵な女性だ。人事が女性であれば素早く心を開き、すぐに仲良くなることを常としている山じいだが、如何せん今井さんとはあまり懇意にできていなかった。これには訳がある。もちろん今井さんの奥ゆかしい性格もあるのだが、原因はそれだけではない。
採用に困っていないリンナイとはこれまで交流がなかった
キャリアサポートオフィスを立ち上げ、少し企業人事と打ち解け始めた頃、リンナイの人事さんと『ガス関係の業界研究会を学内でやろう』という話になった。東邦ガス&パロマ&リンナイの3社で「ガスPR展」という合同展の企画を立てたんだ。
しかし、パロマとリンナイのターゲットとする学生があまりにも近過ぎたがゆえに、実現できなかった。あのときは本当に良い勉強をさせてもらった。
その後、積極的な人事担当者がいたパロマを中心に、パロマ&東邦ガス&愛知時計電機の「ガス展」という業界研究会を開催するようになり、現在に至っている。
あの当時、熱エネルギー機器業界における名工大生の採用は、パロマより圧倒的にリンナイの方が多かった。企業規模や売り上げは両社とも日本を代表する熱エネルギー機器メーカーだが、名工大生の人気は圧倒的にリンナイに軍配が上がっていた。
その証拠として、現時点の名工大OB・OGの在籍者数は、リンナイはパロマの3倍強。だからリンナイは敢えて名工大生の採用に力を掛けなくても、さほど困ったことにはなっていなかった。これは今も同じで、リンナイの人気は相変わらず衰えていない。この理由については後ほど説明しよう。
採用担当の今井さんとおばあさま〜リンナイ製のオーブンで焼いた出来立てのケーキとともに
40年以上使い継がれる今井家のリンナイ製オーブン
今井さんに連れられて駐車場から工場の中へ。相当年季が入っているはずなのに、小ぎれいで素敵な印象。整理整頓が行き届いているのはいい仕事をしている証拠だな、と感心しきりであった。
歩きながらしていた雑談の中で今井さんから「先生、私のおばあちゃんの家には40年以上使い続けている弊社のガスコンベックオーブンがあるんですよ! それもまだ一度も故障したことがなく、現役で使えているんです。先週末にはそのオーブンでタルト焼いたんですよ!!」なんてエピソードを聞かされてビックリ。
ナ・ナ・なーんですと!? いや、そのリンナイのガスオーブンの長寿命もすごいけど、この逸話を持っている今井さんがもっとすごいよ。彼女自身がリンナイの採用面接を受けたときには当然この話題を武器にして、「こんなに長い間使い続けられる製品を作ることのできる会社に惚れました」と語ったに違いない。そんなことを満面の笑みで今井さんから言われたら、役員を含め採用の面々は全員、胸キュンだよな。
こういう製品に対する愛着トークは、少々むさくるしい名工大技術屋学生が放っても効果ある一撃になるのではないだろうか。副社長を含め、面接会場にいたおじさんたちが即決で合格のハンコを押したことは想像に難くない。
「その話は、新卒を採用する際の武器にもなるね」っと彼女に言ってみると、「仲良くなった就活生には話すんですよ」だって。さすがは、今井さん!! でも、仲良くなってからではなく、「グイグイ、一発目のストレートパンチとして活用しなくっちゃ!」と山じいの指導が入ったのでした。
この会話を通して改めて気づいたんだが、リンナイって文系の女子学生が製品談議で攻めることができるほど、身近な製品を作っている会社さんなんだな〜。って、ま、だから人気なんだけど。
林内式石油ガスコンロ
林さんと内藤さんから始まったリンナイ
さて、ここからはリンナイについて深く調査していこう。まず、なぜそれほどガツガツ採用活動をしなくとも名工大生を採用できていたのか? そして、なぜ今この『山じいのおもろい企業探索ツアー』に協力してくださったのか? 紐解いていこう。
リンナイは元々東邦ガスにお勤めだった、営業畑の林さんと、技術畑の内藤さんのお二人が一念発起されて興された会社。ガス・石油関連機器メーカーとして、1920年に創業された。
ガスってそんなに前から??って思った人もいるんじゃないかな。そのことについては、以前この「おもろい企業探索ツアー」で紹介したガス管の施工管理会社である山田商会でも取り上げたが、都市ガスは明治初期から活用されてきたんだよ。当時は天然ガスではなく、石炭を蒸し焼きにして作る石炭ガスだったんだけどね。
明治5年には文明開化の先駆けとして、横浜にガス灯を灯すためのガス会社が設立された。なんとあの西郷隆盛が蜂起した西南戦争(明治10年)以前だよ。ガスっていう燃料はその性質(見えない、漂う、燃える)上、危険性があるからガス機器やガス工事の元締めは基本的にはガス会社になる。だから、リンナイも山田商会も創業者は東邦ガス出身なんだ。
で、リンナイは元々「林内商会」という社名で、最初は加圧式石油コンロ(ガスコンロでないところがご愛敬…当時ガスボンベは無かったんだな)の製造販売を始めた。
今でも古風な登山者は山の上で、石油タンクに圧縮空気を押し込んで気化させて火をつけるバーナーを使っている。シュコシュコシュコってね。ガスバーナーと違ってどんな寒い山の上でも着火する強みがあるんだ。
林内商会は第二次世界大戦中、他社同様、航空機産業の一端を担っていたが、戦後「林内製作所」へと改名し、ガス関連機器メーカーとして復活した。昭和42年に海外進出を始め、46年には「リンナイ」と名乗るようになった。ここまで二人の創業家、林さんと内藤さんは、二家族でオーナーとして会社を引っ張り見守ってこられたんだ。
今も会長は林さんで、社長が内藤さんだ。リンナイは典型的なオーナー企業なんだな。起業を二人でやるっていうのはよく聞く話なんだけど、創業100年経ってもいまだに、ツイン体制を持続させているのは珍しい。このバリバリのオーナー体制は社風に大きく影響しているから、そこは納得して選ばないとミスマッチを起こす可能性はあるが、リンナイのツイン体制はとても興味深く面白い。
シュバンクバーナー燃焼の様子
シュバンク社との出会いを機に石油機器メーカーからガス機器メーカーへ
創業当時、リンナイは「加圧式石油コンロ」などのガス関連機器の製造販売をしていた。
転機になったのは1957年。オーナーがヨーロッパ視察でドイツのシュバンク社を訪問した際の出来事。そこで紹介された「赤外線ガスバーナー」に惚れ込み、当時の売り上げの1/3もの巨額の特許料を支払うことを即決し、帰国後すぐに製造販売を始めた。オーナーの独断でだよ? これぞオーナー企業だな。
この「赤外線バーナー」は山じいも見たことがある。駅舎ホームの屋根に取り付けられていた暖房機器だ。今も現役らしいぞ。
この社運を賭けた勝負(あえて博打とは言わないけど)は大成功を収め、当初の予定よりも随分と早く借金の返済が済んだそうだ。ここに、営業と技術のツイン体制オーナー企業としての強みが表れているね。技術屋だけだと、採算が取れない。幅広い技術力と経営に関しての勘、そして何よりも意思決定の速さ。ここがリンナイの一番の特徴だ。このツイン体制の主導によって、リンナイは押しも押されもせぬ日本を代表する熱エネルギー機器メーカーに成長したんだ。
ズバリ! リンナイは機械電気・情報専攻の学生を求めている
現在売り上げの60%弱をガス給湯器、25%をガスコンロ関連と、9割弱をこの2種目で占めているが、リンナイのおもろいところはこれらの製品でガッツリ儲けた盤石な財務体制で、新しい分野にどんどん進出しているところだ。
詳細は後編の工場見学でも紹介するが、商品の幅広さと攻めの製品開発がリンナイのおもろいところだと思う。そんなリンナイで働いている名工大OB・OGは何と160名。毎年たくさん入れてもらってるからねー。
一番気になっていたのは、なぜ名工大生を毎年採用できているリンナイが今回『おもろい企業探索ツアー』の取材に応じてくれたのか?さほどの苦労もなく(ごめんなさい今井さん、貴女は一生懸命やっていらっしゃいます)就活生が集まっているのを見ていたから、山じいとしては不思議だった。
初めは分からなかったんだけど、今井さんと話をしていてピンときた。リンナイは名工大の機電や情報の学生が欲しいんだ。リンナイに在籍するOB・OG160名のうち、なんと約半数が化学材料系の学科出身だそうだよ。
リンナイは開発から生産まで一貫して手掛けており、自分が関わった機械製品を世に出せる一気通貫型の最終製品を作れるメーカーなのに、なぜか化学材料系の学生に人気がある。同じようにB to Cで電動工具を作っているメーカーのマキタには、化学材料系のOB・OGはほとんどいない。
ガス機器が有名ということで、化学屋に馴染みの深い製品を扱っているところに学生が惹きつけられるのだとは思うが、この辺りはもっと解きほぐしていきたい。今回の最大のミッションは、名工大機電・情報の多くの学生に、リンナイを意識させることである。
見覚えのある製品が続々と組み立てられていく工場は見応えがあった
名工大OBエンジニアの志望動機と仕事内容とは
さて、社内に160名もの名工大OB・OGが在籍しているとなると、誰にインタビューするかを決めるのも一苦労だ。今回は今井さんが開発と生産技術から、年代、そして業務のバラツキを考えて、精鋭といっても過言ではない選りすぐりのOB4名を集めてくださった。
上は20年選手の山本さんから、まだ入社5年目の草譯さんまで幅広い年代のOBが集まってくれた。彼らはなんと皆、生命応用化学関連の研究室出身なんだ。セラミックが3名と化学が1名という布陣。これがリンナイの縮図か…。
同様に機電学生の確保に苦心されている大手メーカー、日本ガイシや日本特殊陶業もこの傾向が強いが、あちらはセラミックスの会社だし納得がいく。でもなぜリンナイのような機械製品製造メーカーのOBがこのような傾向に…? 精鋭4名に伺ったリンナイへの志望動機をまとめると…
1. 身内や知り合いに自慢できる身近な製品を作っている
2. 業界トップシェアを堅持している
この2つに尽きるんだよね。やはり熱機器は目につくからね。そしてマキタの電動工具と違い機械素人でも扱いやすいことが影響していそうだ。でもね、コンロはまだしも、給湯器は「メカ技術の塊」みたいな物なんだぜ。ま、ここらは後編でゆっくりと…
そうそう、OBさんたちの紹介の途中であった。
名古屋工業大学 工学部材料工学科卒業 山本さん
乾太くんの開発に携わる山本さん
4名の中で最年長の山本さんは、2001年に当時の材料工学科(無機材料コース)を学部卒し、以来働いている20年選手だ。長年ガス空調系の開発部門を歩み、ここ最近では「乾太くん」という、衣類のガス乾燥機の開発に携わっている。もともとは東京ガス傘下で、松下電器産業(現パナソニック)と競って作っていたそうだが、パナソニックが撤退したので、今では独占状態だそうだ。
ガス衣類乾燥機は電気製品と比べて絶対的な熱量で乾かすので、ふんわりとした仕上げになり評判がとても良いそうだよ。乾太くんのことを話すときは、まるで自分の息子さんのことを自慢しているよう。これだね、やはり身近なものを作る楽しみってやつは。
名古屋工業大学 工学研究科物室工学専攻修了 岸本さん
リンナイのモノづくりの効率化に取り組む岸本さんと草譯さん
次は、セラミック研究室出身で17年目の岸本さんだ。彼は大学院を修了したものの、もうセラミックの研究は卒業したいと考えるようになったそう。で、身の回りにあって、「これ父ちゃんが作ってるもんだぞ!」って子供に自慢のできる物づくりができる会社という点でリンナイを選んだ。やはり、ほとんどのリンナイ従業員はこの点に惚れているね。
でも彼は開発ではなく、そのモノづくりの効率化を考える生産技術を選んだ。今は「リアルタイム部品供給指示システム」の開発に心血を注いでいるそうだ。これからのリンナイでは生産効率を上げていくことが大きな目標であることを、生産本部長がお話されていた。岸本さんはリンナイのキーポイントを任されて意気揚々だった。
名古屋工業大学 工学部環境材料工学科卒業 草譯さん
もう一人のセラ研出身、5年目の草譯(くさわけ)さんも「誰でも手に取れる製品のモノづくりで生産技術がしたい」という理由でリンナイを選んだ。
生技をやるなら、どこのメーカーでもよかろうにとも思うが、そこが違うんだな。やはり「これを作った」って知人に説明しやすいもの、聞き手に「ほぉー!!」って言ってもらえるモノづくりの手助け・生産技術にはやりがいがある。
学生当時、研究室を訪れたリンナイで働いている先輩に就活相談したところ「うちの職場がピッタリだよ」と言われて興味を持ったらしい。やはり先輩が就職した会社は他と比べて情報量が違うよね。
草譯さんは学部生ながら就活における自分の考えを持っていて、それにフィットするリンナイの生産技術を選び込んだ。ここまでしっかりしていたら就活支援も楽だわ。
名古屋工業大学 工学研究科未来材料創生工学専攻修了 葛谷さん
要素技術の開発に取り組む葛谷さん
最後に紹介するのは化学系出身の10年目OB、葛谷君だ。彼は山じいの研究室出身。指導教員は違うけどね。彼の修論のテーマは「光合成細菌のたんぱく質に関しての研究」。OBの中でもかなり異色。リンナイと全く関係ないしね。そんな彼の志望理由は「人々の役に立つモノづくりがしたい」だったそうだ。
配属されたのは製品開発ではなく、その製品の核になるパーツに使う要素技術の開発部署。化学系で修士卒の彼には、そういったアカデミックな業務が似合ってたんだろう。
入社10年目の彼は、これまで数多くの要素部品の開発に関わってきた。ビルトインガスコンロで有名な「デリシア」の「水やガスのコントロール部品」の開発設計にも携わってきたことを雄弁に話してくれた。研究室にいる頃は本当に無口で几帳面な優男(やさおとこ)だったんだけどね。社会人生活は人を成長させるんだな。
OB4名へのインタビューを通じて、リンナイは人を成長させられる会社だってことに気がついた。つまり入社後のミスマッチが少ない会社なんだな。
これから生産技術や要素部品の開発に、設計や流体力学、そして回路設計を学んだ学生が入ればリンナイは怖いものなしになるだろう。名工大の機電系、情報系就活生よ、ぜひリンナイに目を向けようではないか。彼女や、自分の将来の子供に、自分の作った製品を自慢できるで!
そして、機電系の名工大女子学生諸君、リンナイは貴女たちのためにある会社じゃないですかね。今井さんに「リンナイの本社や各工場にある美しいショールームで名工大女子学生のための料理教室を開いてやってください。そしてリンナイの虜にしてやってくださいと。」とお願いしておいた。ぜひ参加してほしい。
文 山じい
編集・撮影 つかっちゃん
後編はこちら
1920年創業、名古屋市中川区に本社を構える熱エネルギー機器メーカー。国内トップシェアを誇る給湯機器だけでなく、厨房機器、空調機器、業務用調理器といった幅広い製品ラインナップを展開。高品質なリンナイの製品は、私たちの身近なところで日々活躍している。海外9カ国でも生産を行い、世界80カ国以上で製品を販売。各国の習慣や環境に合わせた熱エネルギー機器の提供に取り組んでいる。