『おもろい企業探索ツアー』第4回は株式会社槌屋。
このシリーズは名古屋工業大学に縁のある企業を訪問して社長や役員、名工大卒業生に話を聞き、山じいの視点からその魅力に迫るという企画です。では後編をどうぞ。(前編はこちら)
槌屋のグループ会社と研究開発センターをじっくり探索
名工大生が大勢在籍する槌屋の知立拠点に到着すると、たくさんのOB・OGにお出迎えをいただいた。
研究開発センターの見学を通して彼らの活躍ぶりを見てみよう。
先ずは山村研出身の冨田君と山下研出身の中嶋君の仕事場だ!!
彼らは吸音材の研究をしている。
素材を選択して複合化したり形状を整えたりして、その吸音性を評価し、製品化へ開発するんだそうだ。
頑張れよ中嶋!!ちっとは研究室での研究も役に立ってるかな?
お次は営業希望で就活をしていたと前編で紹介した田中さん。
彼女は無機触媒の研究室でしたが、今は何をやらせてもらってるのかな?
な・な・なんと、食品検査装置の開発...
槌屋さんが食品検査装置?
槌屋の持っている画像処理技術を使って、初期のコロニーをカウントできる装置で、食品に微生物が混ざっているかを従来の1/4の培養時間で確認できる。
素晴らしい!でもなんで槌屋で??・・・でもこれが槌屋なんだね。
田中さんの説明は多少ぎこちなかったけど活き活きしていたよ、素敵です。
そして前編でも紹介した群馬大から名工大リベンジ組の辻君。
彼のテーマは近年MRJなんかにも使われている、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の接着剤の研究。
槌屋のメインの仕事は車のシールだと思っていたけど凄いよな、このバラエティー感は!!
CFRPは軽くて金属よりも強い素材なんだけど、接合が難しい。
いろんな接着剤があるんだけど、現状はどれも強度に欠ける。
彼は接着部分の強度を上げるための探索中なんだ。
素材の最先端の研究がやれていると辻君は大変ご満悦だったよ。
これは接着した素材の接合強度を測定できる装置で、飛行機に使えるような高強度かを測定する。
色んな測定装置も完備されていて、槌屋侮れません・・・(写真NGで載せられないけど最新鋭の機器が揃っていたぞ。)
これはもう商社じゃない!!!東海に帰ってきてよかったね辻君。
そのあとは素敵なショールームで、その他の色々な製品を見せてもらいました。
これは槌屋の繊維部門が開発した布状センサーで、導電性の繊維を布に織り込んであるから、タッチパネルのようになっていて色んな応用ができる。
既に製品化されているものには、寝たきりの人の床ずれを防止できるベッドシーツや、車椅子からのずり落ち防止システムなどがあるらしい。
山じいも要介護者の気持ちになってセンサー付き車椅子を使ってみた。
おじいちゃんたちは、車いすからずりずりと時間を掛けて落ちていくらしく、それをこの製品がセンシングしてアラートが鳴って、ヘルパーさんが駆け付けるというシステム。
槌屋って何の会社だっけ???
実は超ご近所!本社は上前津にある
知立の会社だとばかり思っていたら、本社間接部門と、商社機能は上前津なんだって。
今新社屋を建てていて、働き方改革も進めているそうだよ。
知立の技術者のオフィスの中にはリラクゼーションスペースがあって、高田さん自慢げに「この中に居る時は一切外部と遮断していいんです」と。
いやーこれは無理でしょ。周りはそのままオフィスだもの。
でも社員想いな発想はステキですね。
製造を担うグループ会社も見学して来た
R&DでOB・OGと交流したあとは知立拠点の敷地内にあるグループ会社の見学をさせてもらった。
槌屋の国内グループ会社は全部で11社、そのうち製造は7社で行なっている。(下図)
まずは槌屋の主力製品であるシールの生産をしている槌屋デカル工業を探索。
埃を嫌う作業なので、やまじいもつかっちゃんも静電服を着てから入室。
その後、風圧洗浄でチリと埃を払い落し・・・山じいの埃落ちるかなぁ??
イヤー、なんだか精密機械を扱う工場だ・・・
ここでは版画と同じシルクスクリーンの手法を用いた特殊な機械を見せていただいた。
本当に色んなシールが作られていたよ。
そりゃ塗料よりも付加価値あるわね。
織物生産を担当する槌屋ティスコ
そしてもう一つの工場、織り、編みの高度な技術で多様な繊維製品をつくる槌屋ティスコへ。
こちらではソフトマテリアルOBの長坂君と、僕の授業を受けたことがあるというベトナム出身で産業戦略工学専攻出身のファン君が説明してくれた。
掃除機の吸い込み口に使われるローラーブラシには導電性のあるカーボンファイバーを使用し、ゴミの拭き取り性能は世界一を誇るそうだ。
コピー機の内部に使われるブラシにはテフロン繊維を使って、トナー漏れや回転軸の抵抗を減らす工夫をしている。
製品に消臭や防カビ機能を持たせることもできるそうで、顧客のニーズに合わせた製品を一品一様で製造してるんだって。
長坂君はOA部門で、OAメーカーからの放電性などの色んなニーズを聞き取りながら、適切な製品の提案と製造をしている。
ファン君はハノイから、愛知ものづくりを支える留学生受け入れ事業で来日して名工大院を修了。(研究室は社会工学専攻の経営システムの徳丸研究室)
槌屋ティスコの人事さんは「本当に日本語が堪能で真面目によく働いてくれます。将来は槌屋ティスコのDNAをしっかりと受け継いで母国での活躍を期待していますよ。」と言っていたよ。
ファン君、目指せベトナム工場長!!!
執行役員との本音トークで見えた槌屋の正体
最後にここまでの取材で見えた以下キーワードを元に役員のお三方に突っ込んだ質問をして槌屋の正体を暴いていく。
- 槌屋の変遷・・商社からメーカーへ
- 三位一体の経営体制の面白さ
- 非上場オーナー企業は有りか無しか
- 配属・働き方でも三位一体
顧客にとって打ち出の小槌のような存在を目指した
先ず槌屋さんの成り立ちなんだけど、前半でも書いたが、70年前に初代社長が始めたのが塗料の商社さんで日本で初めてのアメリカ超大手ケミカルメーカーDU PONT社の代理店。
このビッグネームを口説き落としたんだから初代社長は凄い。
でももっと凄いのは、塗料の商社なのに車や家電品の装飾用ラベルを作ったこと。
そんなことしたら塗料売れなくなっちゃうじゃん…普通ならそう考えて没案だけど、塗料のユーザーさんには付加価値の高い商品として確実に売れる。
その発想と決断が初代のすんげーところなんだ。
商社が物を作るようになることは意外と結構あって、メーカー機能を有する商社と分類されるのだけど、通常であれば製品をユーザ仕様に多少加工する程度。
こんな競争のある市場へ乗り込んで、付加価値の高い製品を自社で作れるところは他にはない。
ユーザーの細かなニーズを聞き倒しているから確実に売れる物を作れるわけだ。
初代は無類の商売上手でありながら、とてもモノづくりが好きな方だったそうだ。
研究開発と商社機能のバランス
槌屋には研究開発(R&D)と商社機能しかなく、製造はグループ会社が担っていて、これを三位一体型企業体系と呼んでいるのだが、この役割分担について各部門はどう考えているのか?
金喰い虫の開発陣と会社の屋台骨を支えている製造の連中がバチバチやっているというのはよく聞く話だ。(成果が出やすい製造部門の方が出世が早いというのもよく聞く話。)
ま、槌屋は製造部門が別会社なのでそれはないとしても、R&Dと商社機能はそれぞれをどう思っているのか??
開発のトップの林さんに聞いてみた。
林さん「営業部が顧客のニーズを事細かに採ってきてくれるので、外れの無い開発ができるんです。」
普通の会社の技術営業は自社の製品や技術から外れた提案はできない。
その点槌屋は顧客のニーズに応じて、世の中に無いモノを開発できるからとてもやりやすいって他の名工大OB・OGも言っていたよ。
では商社の方は開発をどう考えているのか?ここは高田さんに聞いてみた。
高田さん「商社部門は開発チームがバックに居てくれるから提案型営業が可能だと実感しています。とても心強いですね。」
これは商社『槌屋』のもの凄く強い売りなんだ。
「お客様の要求課題をクリアするには、弊社のこの製品をこの様にカスタマイズして・・・」と既存の製品を売るだけではない提案ができる。
このすごい経営体系があるからこそ、余裕のあるモノづくりができるんだよ!!
非上場企業のR&Dの強み
槌屋は非上場。
オーナー企業だけれどやりやすいのか?やりにくいのか?を本音モードで役員の皆さん聞いてみた。
この問題は若手よりも組織上層部の方が切実。
総務部長の高田さんは開口一番「やりやすいですよ、とても!なんたって意思決定が速い。良いことだと社長が判断したらOKですから。うちの社長は常に社員の声に耳を傾けて明敏な判断をするので、提案を持って行って決裁を仰ぐときの緊張感は半端ないですけどね。」
提案して稟議回して、決裁採ってなんてしていたら…世の中においてかれちゃうもんね。
林さん「開発にはどうしても時間とお金が掛かる。上場企業は株主の顔色を見て動かないといけないし、そんなことやっていたら自由な開発なんてできない。社長が交代して(サラリーマン社長だと下手すると2、3年で代わる)会社の方針が変わってしまうような環境で良い研究開発なんて出来ないですよ!」
そりゃそうだわね。ごもっともです。
ふむふむ、下町ロケットを見ていればよく判る話で財前部長の苦しみだよね!!
ま、でもこの体制は社長の切れ味次第でエライことになる。
社長がへっぽこだったら長期政権中に会社が潰れる。
その点、槌屋の三代目はキレッキレだから心配要らずで林さんも落ち着いて世の中に無いものを生み出すR&Dの舵を切れるんだ。
商社部門から上がってくる十分な顧客ニーズを基に自由な開発を落ち着いてやれる、それが槌屋なんだ。
働きたくなってきたでしょう?知立で!!
大学生が適職を見つける難しさ
開発・製造・商社の三位一体の陣容は商売だけでなく、働き方にもメリットがある。
君たち就活生には必ず自己分析をして、なぜ自分がその会社で働きたいのか、どう働くつもりなのか志望動機をしっかり書きなさいと言われるよね。
そうするとメーカーに行く多くの学生はほぼほぼ「開発に携わってお客様に新しい価値を提供してその喜ぶ顔が見てみたい!」って書くんだけどこれアウトだからね。
みんな書くってことは、多くの採用担当の皆さんはこんなESをアホ程読んでいる。
つまり読み飛ばされること間違いなし!!
そういうボヤッとした自己分析と志望動機しかない君たちがベストな会社を選べると思うかい??(そんなミスマッチをなくすために山じいはこのおもろい企業探索シリーズを始めたんだ!)
早期離職の理由には「思っていた働き方と違う」「人事さんが言っていたような働き方をさせてもらえない!」(なんて人のせいにするような奴もいるけどバカたれが誰の人生や!!自分のケツは自分で拭け!!)といったものが多い。
これは働いたこともない学生が現在の知識と経験だけで会社を選んでも思い通りの働き方ができる可能性は低いということ。
それって本当に難しいわけさ。
三位一体は新卒入社先として大きなメリットがある
そんな時にこの槌屋の三位一体は威力を発揮する。
社内で異動する選択肢が広い会社、それも単なる部署異動ってやつではなく、働き方が違う異動ができるんだ。
先ず入る時の選択肢も広いし、開発がやりたいと思って入ったけど、実際にやっているうちにモノづくりが嫌になることもある。また営業としてお客様に喜んでもらえることに面白みを感じ出すこともあるわけで、幅広い選択肢の中から働くフィールドを選ぶことができるのが三位一体型企業の強みなんだ。
入社2年目のOG 田中さんは「研究は向いていないと思い、技術営業で仕事を探したけど、研究や技術の事を知らずに技術営業するのは不安だなと感じた。営業から技術への異動は難しいだろうから、逆ができそうな槌屋での技術職を最終的に選んだ。」と言っていたよ。よく考えているわ。
のびのびと自由に開発ができる現場に求められる人材とは
最後に役員のお三方に、どんな名工大生が欲しいかを聞いてみました。
古山さん「槌屋では商社から上がってくる豊富な顧客ニーズから、自由な発想で、そして急かされることもなく、のびのびと開発ができる環境で働ける。逆に言えば上司の指示待ちで、締め切りに追われてやるような仕事ではないので、自分からあれこれと発想ができて開発に打ち込める学生が欲しいですね!」っとのお言葉を頂いた。
高田さん「就活生のレベルで自己分析が完璧にできている人なんているわけがなく、自分はどういう働き方をしたいか分かっていない人も多いですよね。キャリアは人生の中で紆余曲折していくものだから、社会人0年生に分からないのは当たり前。そんな学生さんにうちの様に働き方に多様性がある会社って、良くないですか?」ってさ。
山じいもその通りだと思う。
地元で、自由な発想で開発に携わりたい人、自分のことそんなに見極めてなくっても、この会社ならば自在な働き方、自在な生き方ができそうだって、改めて槌屋さんのこと惚れ直したわ!!
山じい
株式会社槌屋
1950年創業、名古屋市中区に本社を置く製品開発型商社。自動車・OA機器・住宅・家電分野を得意とし、航空宇宙や医療機器などの分野にも挑戦している。「研究開発」「製造」「販売」機能を持ち、顧客のニーズから製品を開発・提案できるのが強み。グループ会社を国内に11社、海外に14社展開。豊富なノウハウとネットワークで世の中の「あったらいいな」「だったらいいな」を叶えるべくモノづくりを追求している。
公式サイト www.tsuchiya-group.co.jp
新卒採用サイト www.tsuchiya-group.co.jp
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さ〜て、次回の『おもろい企業探索ツアー』は?
関ケ原製作所を取材してきました。公開は2019年4月中旬...LINEとtwitterでお知らせ。
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つかっちゃん