山じい完全ウォッチング

名工大生の就活に必要な情報を発信中。名古屋工業大学キャリアサポートオフィス長 山下教授に完全密着。Presented by welcomes inc

トヨタ生産方式を究めたらどうなる? 生産効率・品質マネジメントの奥深さ|おもろい企業 名張製作所(前編)

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『おもろい企業探索ツアー』第6回は株式会社名張製作所。

このシリーズは名古屋工業大学に縁のある企業を訪問して社長や役員、名工大卒業生に話を聞き、山じいの視点からその魅力に迫るという企画です。では前編をどうぞ。

 

トヨタ生産方式を体系化した大野氏は名工大の大先輩

みんなはトヨタ生産方式(TPS;TOYOTA Production System)を知っているかい?トヨタ自動車関連会社だけでなく、今や全世界の製造業が取り入れている生産管理システムなんだ。

このシステムは各社各様になり、その会社の生産効率や品質を高めることに寄与している。「ジャスト・イン・タイム」とか、「カンバン方式」とか、聞いたことあるっしょ!!

豊田自動織機の中でトヨタ自動車を設立した豊田喜一郎氏が海外における生産方式の研究からスタートさせ、我らが母校名古屋工業大学の前身である名古屋高等工業高校出身の大野耐一氏が体系化した生産方式として、あまりにも有名なんだぜ。

世界のTPSの生みの親が我らが大先輩だなんて、なんか「エッヘン!」って気分じゃないかい?

TPSについては後でもう少し詳しく語るとして、このTPSを駆使して車載用カーエアコンの部品であるコンプレッサの組み立てで発注元と勝負している会社があるんだ。大府にある名張製作所だよ。聞いたことないでしょ!!!今回は豊田自動織機のコンプレッサを組み立てているこの会社を探索して来た。

 

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困難を覚悟で挑んだ取材当日、山じいの憂鬱はマックス

名張製作所の西條常務から熱心にお誘いをただいて、先ずは行ってみようということになり、それからこの会社の事を調べ始めた。で…「これはヤバイ!!」が先ずは第一印象だった。

250名規模の中堅メーカーで、豊田自動織機からのオーダーで車載用カーエアコンのコンプレッサを組み立てている会社なんだよ。つまり自社でコンプレッサの開発はせず、織機から受注の入ったコンプレッサを組み立てているだけの会社なのよね。しかも取引先は織機だけという…どうやったら名工大生に卸せるんだろうか、この会社を!?(これを業界では一本足打法と呼ぶらしい。)

今までにも、この規模感の会社さんは紹介して来たけど、きらりと光る開発能力があったり、めっちゃオモロイ製品を作っていたり、はたまた働き方がとても素敵だったりと一癖二癖あったんだ。

でもこの名張製作所は…あちゃ〜!!!っこれはあかんぞ!!第6回目にしてやっちまったわ。

新しい会社を訪問するときはいつも「この会社のおもろい所はどこだろう?みんなに紹介できるような魅力はあるだろうか??」といった不安に駆られながら門をくぐることが多いんだけど、今回は不安ではなく確信だった。

マジやっべーぞ!!ってね。織機からの注文が止まったらお終いじゃないですか!!なんちゅう経営してんねん…っと、経営の素人山じいは思ったのですよ。

 

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会長の話が面白い、この会社には何かある

取材当日はJR共和駅に西條常務自らお迎えに来ていただき、湾岸自動車道と名古屋高速三号線と知多半島道路に囲まれたトライアングル状の土地にある本社へ車で向かった。高速からの利便性はよいものの最寄り駅からは、決して便利ではなく…(朝夕の送迎バス「NABARI BUS」は完備しているそうだ。)

その大府の田園地帯の中にでーんと建っている名張製作所本社工場で、創設者の2代目である安藤会長とその娘婿である3代目中村社長にお出迎え頂き、まずは安藤会長から会社の沿革と会社に対する想いを伺った。

名張製作所は昭和29年、終戦のバタバタが落ち着いた頃に安藤会長のお父様が名古屋市南区に設立した溶接工場で、溶接の腕で飯を食っているおやじ軍団だったそうだ。そんな溶接屋さんはその腕を買われ豊田自動織機フォークリフト本体の溶接を担うようになる。

それが平成3年に突然織機から「おい、お前んとこ溶接辞めてコンプレッサの組み立てやらんか?」っと唐突なご指令を受けたそうだ。びっくりだよね。

なんぼ織機からの指令だったからとはいえ、腕前自慢の溶接職人軍団からライン生産(安藤会長はライン生産なんて、おばちゃんたちがラインに並んで黙々とする細かな単純作業だと思ってたそうな)へ、よく思い切って切り替えられたもんだよね。

 

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名張製作所と豊田自動織機が作るコンプレッサはカーエアコンの世界シェア43%を誇るデンソーを通じて世界中の車に搭載されている。名張製作所は軽自動車からバス・トラック・建機向けまでの少量多品種を年間約300万台を生産している。

コンプレッサの織機からの請負製造量は断トツNo.1

よく聞くとその頃名張製作所ではフォークリフトの溶接を半自動化ライン生産で進めていた。織機はその能力の高さを見越しての事業転換の提案だったようだ。

織機のコンプレッサは車載用エアコンを作っているデンソーとの共同開発で、本来は門外不出だったんだけど、織機は生産事情の下、やむにやまれずデンソーを説得して名張製作所に生産の一部を任せ始めたんだ。

そこから織機は織機本体の工場や海外組み立て工場から引き上げたコンプレッサ製造ラインのお古を貸与という形で一本、また一本と名張製作所へどんどん送り込んできた。

名張製作所は織機の資本は一銭も入って無いから子会社ではなく単なる協力会社なんだけど、ま、この送り込まれて来たライン設備が織機の資本導入なんだ。だから作ったコンプレッサは織機以外の他社に売ることはまかりならず、織機のためにあくせく組み立てることがミッションなんだよね。

ここまで聞くと「やだぁ~~!!こんな会社!」になりゃしないかい??身動き取れず、織機の指令の元ひたすらコンプレッサを組み立てるイメージ…ね!!あかんでしょ!!

でもね、経営的には織機からのライン設備が一本入る毎に、今までの溶接の売り上げと同等もしくはそれ以上の売り上げが入り、どんどん伸びてラインで流せや、作れや、儲けろやって状態に。現在では250名の会社で、総売り上げ200億近いんだよ。すごくないかい??

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溶接工オヤジ軍団からライン生産玄人組織へ

最初はライン生産なんて女子供の仕事であって、おいら技術屋軍団には物足らない、人を増やせばやり切れる仕事だと思っていた会長たちだったけど、ところがどっこい、ぎっちょんちょん!

降り掛かってくる注文を、たった数本のラインで生産するには品質管理を高めて、生産効率を上げるだけでなく、そのラインのタクトタイム(その日の生産数でラインの稼働時間を除した数字)即ち、製品を一個作るのにかかる時間をいかに縮めるか、つまり生産管理の重要性に気付いたんだ。

コンプレッサの設計をすることは叶わないけれども、ラインでコンプレッサを組み立てていく過程の管理・保全・品質保証・改善を考えることが名張製作所のミッションであり強みなんだ。

 

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NABARIはライン改善のプロ!いや、神!

名張製作所の技術力を持って改善されたお古の生産ラインは本社で稼働していた頃よりも生産効率が上がっている。早いのは移設前の半分ぐらいのタクトタイムを叩き出しているそうだよ…

こうなると、国内の名張で作って梱包して輸出しても海外工場の製品と勝負ができるって会長はこそっと教えてくれました。

こんな小さな会社だからこそ、全社でライン効率の改善に取り組み、成し遂げられたんだって。これこそ、TPSの実践なんだよね。

「作るものは選べないけれど、その作り方の創意工夫ができる。」そんな会社なんだよ名張製作所さんは。

これまで多くの会社を紹介して来たけど、製品や働き方、開発、色んなところに各社の売りがあることを学んで来たけど、ここはその作り方にオモロイがあることを発見したんだわ。

 

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そもそもトヨタ生産方式とは?

名張製作所はTPSの会社だと紹介してきたけど、このトヨタ生産方式っていったい何なんだろうかね??

トヨタ自動車が本格的に自動車生産を始めたころ、その主流は米国にあり、彼の国はその豊富な資源を後ろ盾に、大量生産方式で世界を牛耳っていた。資源が乏しい日本ではその方式を真似できる筈もない。

トヨタ自動車は少量多品種の製品を、高いクオリティーを維持して、できるだけ早くお客様に、それもできるだけ低価格で提供すること、つまりは生産工程における「無駄の排除」と「合理的な造り方」を目指したんだ。

創始者である豊田喜一郎氏の想いを、我らが大先輩、大野耐一氏が体系化したのがこのトヨタ生産方式(TPS)なんだ。

このTPSには大きな二本柱がある。 

  1. ジャスト・イン・タイム(JIT  と
  2. ニンベンの付いた自働化  なんだな。

  

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パーツ1個レベルから売れる分しか作らない仕組みJIT

ジャスト・イン・タイムとは、必要な物を、必要な時に、必要な数だけ作って、ムダ・ムラ・ムリを無くす生産方式であり、以下の4つの工夫から成り立っているんだ。

  • a. 後工程による引き取り
  • b. 生産の平準化
  • c. 工程の流れ化
  • d. 多能工

お客さんからの注文に対応して製品を組み立てて、その組み立てで使った分の部品だけを部品加工するシステムを「後工程による引き取り」と言う。(a.)

そして生産ラインの上にだぶついた製品や、逆に空いた状態を作らないように、生産が「平準化」するように工夫をするんだ。(b.)

その工夫により、生産ラインを、そして工場全体の作業工程をスムーズに「流れる」ようにすることが生産の無駄を無くし、生産効率を上げることになるんだってさ。(c.)

さらに、一人の作業者が色んな作業をこなせるようにすること「多能工化」で、生産ラインの上に繁忙な工程が出てきたときに、閑散な工程の作業者がフォローできるようになると、生産ラインの流れがさらに、スムーズになるという仕組みなんだ。(d.)

生産ラインを流れ易くするために、その配置に工夫を凝らしたり一つの製品を作るタクトタイムを均質化することにより、流れをよりスムーズにできるんだ。また、後工程からの引き取りに欠かせないアイテムがあの有名なカンバンなのである。

 

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名張製作所の創意工夫で開発された生産ロボットに感心してすごい勢いで振り向く山じい。

異常を自動で検知する”自働化”でコスト削減

では、ニンベンの付いた自“働”化とは?

通常、ジドウカは自動化という文字を当てるよね。これは機械が自動で動いてるという意味。

TPSにおけるジドウカはニンベンが入った自働化を指し、そのシステムに何か異常が発生すると、それを自動的に感知し、システムが勝手に停止して生産をストップさせるんだ。

そうすれば、何かあった時に時間のロスは出ても、製品のロスが少なくなるし、自動運転を監視する作業員を配置する必要もなくなる。自働化になっていると異常発生から発見までの時間が短いので、ロスも少なく、また原因究明も比較的容易になるそうだ。この省人化は生産コストを下げられる要因にもなるよね。

この2本柱を各社各様に工夫しているのが日本におけるTPSなんだ。

名張製作所がこのTPSを自社工場内で、どう工夫し、どうやって生産効率や品質の改良に進めていったかは、後編を楽しみにしていて欲しい。

いやー、こういう「おもろい」もあるんだって、めっちゃ勉強になった今回の探索でした。満足満足!!西條常務、本当にありがとうございました。

 

山じい 

 

後編はこちら

blog.nityamakei.com

 

 

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株式会社名張製作所

1954年創業、愛知県大府市にあるカーエアコン用コンプレッサ組み立て製造メーカー。溶接・板金業からスタートし、1970年頃より豊田自動織機フォークリフトに使用されるフレーム加工をはじめる。その生産技術に目をつけた豊田自動織機より、1991年頃からコンプレッサ組み立てラインの提供を受け、現在国内で織機からコンプレッサの組み立て製造を請け負っている唯一の協力会社。2007年には自動車産業の品質マネジメントシステムを保証する国際規格IATF 16949も取得した、コンプレッサ組み立て製造のプロフェッショナル集団。

 


公式サイト

www.nabari-mfg.co.jp

 

 

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