おもろい企業探索ツアー・第11回は『株式会社三ツ知』。
このシリーズは名古屋工業大学に縁のある企業を訪問して、社長や役員、名工大卒業生に話を聞き、山じいの視点からその魅力に迫るという企画です。では前編をどうぞ。
(過去の特集一覧はこちら)
車一台に100種類以上も使われる「工業用ファスナー」とは
いつもながらのことだけど、三ッ知って何の会社か知ってる人いるかい? 知らないよなぁ!
山じいも恥ずかしながら人事の佐竹さんが訪ねてくるまで全く知らなかったよ。
三ツ知は主に自動車用のファスナーを作っている会社だが、ファスナーといっても服に付いているあのチャックのことではない。
工業用部品のファスナーといえば、留め具・締め具(英語 [fasten:締める]に由来)のことである。
1963年に自動車部品の商社として創業したのち、1971年に三重県松阪市飯高町でファスナーの製造業を開始。
社名の由来には諸説あるようだが、創業者が3人だったことから、「三人寄れば文殊の知恵」という天橋立の知恩寺文殊堂の言い伝えにあやかって付けられた名前である。
「製品が地味=不人気」は理系学生にあてはまらない
東海地方でファスナーの会社といえば、名工大生OB・OGもたくさん在籍する青山製作所がまず思い浮かぶ。
一方、中堅の三ツ知はここ数年新卒理系採用ができておらず、名工大OBは中途入社が一人いるだけ。
三ツ知の従業員数は連結500名弱と、これまで取材してきた会社の中では割と大きいし、経営も安定しているのに理系採用ができてないってどういうこと? これはあかん。
作っているのがネジや留め具だから?
確かに車の部品を留める部品なんて華がないよな(ゴメンナサイ)。
でも、華はなくとも毎年しっかり名工大生を採用できている会社はたくさんある。
配電盤作っているあの会社、バルブ作っているあの会社、請負でコンプレッサーを作っているあの会社しかり。
これは攻め方が悪いだけじゃないかな。佐竹さん ! 一緒に作戦考えましょう!
強い! 早い! 冷間鍛造はまるで手品
みんな冷間鍛造(れいかんたんぞう)って知ってるかい?
この加工技術が三ツ知のコア技術・おもろいところである。
素人の山じいが解説するのもおこがましいが、金属の成型加工には大きく分けて鋳造(ちゅうぞう/溶かして流し込む)と焼結(粉を焼く)そして塑性(そせい/圧力をかける)加工がある。
塑性加工の一つである鍛造(たんぞう)には熱間鍛造、温間鍛造、冷間鍛造があり、常温で成型するのが冷間鍛造である。
冷間鍛造は熱膨張の影響が少なく精度を出しやすい。
また、ファイバーフローが分断されないため鋳造よりも強い。
さらに溶けた鉄を冷ます時間も必要もないため工程時間も短いという特性を持つ。
工程時間(タクトタイム)については名張製作所の特集で触れたが覚えているかな?
短いほど生産効率が良く、コストを抑えられるんだ。
円柱状の鉄素材に圧力かけて金型にセットしたら、ポンと製品が出てくるんだから簡単と思いきや、いやいやそんな簡単なもんじゃない。
冷間鍛造は直径34mm・重さ2トンの極太巻線をゆっくり伸ばし直して切断し、円筒状の素材を作るところから始まる。
その円筒状の素材を何段階かに分けて鍛造して仕上げていくのだが、そのさまはマジック。
「なんでこの円筒がこの形になるの?」
圧力だけで形にしていくさまは摩訶不思議な世界なんだよね。
すんごくね~か? まだ解らんかな?
冷間鍛造、恐るべしだよ。
鋳造なら金型を作って熔けた鉄を流し込むだけだから理解可能なんだけど、冷間鍛造は押し込むだけだよ、鉄の塊を。いったいどうやってんだか訳がわからないよ!
まさしく三ツ知のおもろいところココにアリだ。
「どう形を作るか」このおもろさ伝わるかな…何しろ肝心のところは極秘だから…
原料である金属の円筒素材と完成品は公開可能だが、その間にある何段階かの中間製品の写真は絶対に公開できない。
何度の鍛造で、どういった変形を経て製品が作られているかはまさしく企業秘密なんだ。
どこまで精度を追求するかによっても鍛造回数や金型が変わってくる。
金型を作るのに時間とコストが掛かるからトータルで常に優れているというわけではないが、鍛造は削りカスが一切出ない環境に優しく無駄のない加工方法なんだ。
あるのは金型造りの匠の技のみ。
ゆえに秘密が多いのだ。
取材に行く前夜、いつものように冷間鍛造の勉強をして、「円筒状の素材をググーッと金型に押し込んで製品を作るのってスゴイ!」なんて思ったんだけど、工場で見せてもらった鍛造工程はそんな生半可なものではなかったんだ。
「え゛ーーー! これからこれができるの!?」 って工場を見学している間中、叫び続けていた。
これまでたくさんの工場を視察して各社のコレ! っていう製品を見てきたけど、今回のような雄たけびの連続は初めてだった。
冷間鍛造はカラクリ仕掛けを通り越して知恵の輪、箱根の寄木細工の秘密箱、いやいやルービックキューブ ? これはもうホント手品の域だね。
佐竹さんはなんでこんな面白い仕事を学生に伝えられてないんだ?
そりゃ完成品を見せたところで学生にはつまらないよね。
だってボルトやナットの類だから。
見れば分かる! 三ツ知のおもろさはインターンシップにて
そんな発見ができるとはつゆ知らず、取材日はいつものように鶴舞駅から電車に乗って名鉄小牧線の最寄駅「間内」で降り、人事の佐竹さんの運転で三ツ知本社へ移動した。
まず始めに、人事の佐竹さんから近年の採用状況についてお話を伺った。
ここ数年来、名工大生どころか理系学生の採用に難渋しているとか。
そりゃ製品の話をしても厳しいだろう。
工業用ファスナーを知っている学生もほぼいないだろう。
しかし、佐竹さんは黙って指を咥えてはいなかった。
やはり「学生に現場を見てほしい!」ということで、昨年から1weekのインターンを始めたそうだ。
メーカーのインターンは本当に現場の理解が必要で、作業の手を止めてインターンを迎え入れることは会社の規模が小さくなればなるほど難しい。
逆にオーナー企業でトップの一声が影響力を持つような会社であれば、生産性が多少落ちたとしても「インターンは会社の将来を担う大事な業務」と捉えて簡単にやれるんだけどね。どこも人事さんは苦労してるんだよ。
で、昨年、頑張ってインターンを実施したところ、なんと名古屋市内の私学から理系学生2人の2020年春入社が決まったんだって。すぐに成果が出たようだ。
小さな会社がインターンをやると福利厚生や職場環境が仇となって「この程度の会社かよ」と学生に見透かされてしまうこともある。
だから中小企業のインターンは良し悪しなんだよね。
でもね、三ツ知は違う。
絶対にあの冷鍛加工の工程を見せれば興味を持つはず。山じいはそう思うんだ。
就活生たちよ! ここまで言われると見たくなってきただろう、三ツ知マジックを!
昨年の成功に気を良くした佐竹さんは現場の積極的な協力もあって、今夏のインターンの受け入れを昨年の2倍に増やしたんだって。
そしたら参加した8名中、名工大生が2名もいたそうだ。
今年は名工大から初めて採用できるかな?
技術の話ならドンと来い! 渡辺工場長
さて、そんな話をしていたら工場の大将こと渡辺工場長のお出ましだ。
パッと見は人の良さそうな物静かなおっちゃんである。
ところが山じいが一夜漬けの鍛造に関する知識をひけらかしていたら、どんどん工場長の目が輝いてきた。
「オッ、この教授、チョットは話が通じるやん!」てな感じで。
そして冷間鍛造と熱間鍛造の違いや鋳造加工との違いを嬉しそうに語り始めたのだ。
この業界では取引先からの注文を言われた通りに作るのではなく、作り方を工夫して、取引先に製品の構造に関する逆提案までする。
製品ではなく作り方に技術力の妙があるわけだ。
「そのスペックが必要ならばこの構造の方が作り易い」とかね。
作り易さは全て単価に反映されるからね。
これは金型までをも製造できる鍛造のプロフェッショナルだからこそできる芸当なんだと山じいは感心しきり。
「先生、お時間です!」と周りは気を揉み始めたが渡辺工場長はいよいよ絶好調!!
技術に関する話は止まらず、30分ほどの予定が1時間以上話をしてしまった。
アハハハハ、いつもながら楽しい! 工場長 !! これぞ技術屋だ。
いざ工場見学へ
細いのからとんでもなく太いのまで、ぐるぐるに巻かれた針金のロールがあっちこっちに置いてある。
まずは2トンもあるこの線状の素材をゆっくりと伸ばしながら切断し、完成品と同じくらいの大きさの円筒状形にしていく。
工場長曰く「この最初の針金の切断が一番の難所で、各社そこに工夫がある。うちもそこにウリがある」そうだ。
工場長はとても熱く語るのだけれども、山じいにはその切断の重要性も、切断面の特徴も全く理解できず、トホホすみません。
そして手渡されたのが、その円筒状の素材から鍛造だけで作られた「普通のネジ」。
中学の技術の時間に「ネジはダイスで切るのが常識」と習ったので、「鍛造だけでネジを作る」工程にはビックリなんだけど、嬉しそうな顔で渡してくれたのは出来上がったばかりの温かい、ただのネジ。
でも工場長のテンションはさらに上がってくる。
山じいをビックリさせてやろうというガキ大将の目だ。
次に取り出してきたのが直径34mmの、ど太い円筒素材から作り出したとんでもない形状の製品!
どうあっても円筒から鍛造だけでこの形状を作り出すなんて考えられない!
それもたった5段階で!!
押して出して次の金型へ、また押して出して、そしてまた押して出して…それだけでこの形が出来上がるのか!?
どうやったら考え出せるんだ?
そう、これが最初の「え゛ーーー!」である。
一方で人事の佐竹さんはスケジュールの遅れが気になってソワソワ。
会議室でスタンバイしている名工大OBやら最後に設定した社長インタビューのことが気になる様子。
でも、我らがガキ大将の渡辺工場長はテンションMAX。
山じいが製品を見て騒いでいるのが嬉しいらしい。
「あれを見せたい」「これも見せたい」と、ガッチャンガッチャンうるさい機械ばっかりの鍛造工場を所狭しと案内しまくる。
「そろそろ時間ですよ!」と横から茶々が入るのに「あとこれだけ。これだけ。」と止まらない工場長。
佐竹さんはさすがに社長のスケジュールが気になるらしく、ついにどこかに行ってしまった。
それでも工場長は「最後にあれを見せたい」と、まだまだ嬉しそうに説明を続ける。
アハハハハ。まるで新しく買ってもらったおもちゃを見せようとする子どものようだ。
なぁみんな、これが技術屋だよ。
こんな面白い会社、やっぱりうちの連中に教えてやらなくっちゃ!!
後編では、名工大OBと社長インタビューの様子をお届けする。
山じい
株式会社三ツ知
1963年創立、愛知県春日井市に本社を置く自動車部品「工業用ファスナー」メーカー。顧客の課題を解決できるカスタムファスナーの提案力、生産体制が強み。US、タイ、中国に工場を持ち、TPSの要件(品質・コスト・JIT)を全て満たせる高度な鍛造の技術力で自動車産業などの基盤を支えている。